"Flesh&Blood" Pirate Series Reading Club 🏴‍☠️ ⛵

[soggyboy]

@eefara

(I need someone to post to reset my limit. XD)

It’s me, stalking this thread bc I kind of want to read these but they’re too hard right now.

[eefara]

We welcome you with open arms, regardless of reading ability. (And thank you!)

[eefara]

Heads up! This most recent volume of 小説Chara (v. 51) is the first volume of the magazine to be made digitally available! So if you’d like a copy of the newest short story yourself, or want to read the new interview with 松岡先生 without waiting for me to slowly take pictures, your time has arrived! Purchase links near the bottom of this page.

[eefara]

I’ve finally tracked down copies of the Chinese translation of F&B! What really threw me is that the Mandarin translation packaged the first 9 volumes into omnibuses, and then switched around what covers they used for those books. So the first omnibus, containing volumes 1-(part of) 3, has the Japanese volume 5 cover on it.

There are a total of 12 volumes that I’ve seen in the wild with a translation, which matches the Korean version; normally I only pick up the first volume of a series in collecting in multiple languages, to save on space, but I ended up with volumes 1-10 in Mandarin (all four omnibuses + the actually volume 10).

I’m not sure which volumes came with which bonuses, but the seller I bought from generously included a mousepad (top-left of the book rectangle) and six bookmarks for my collection.

(cough I need someone to post again for me. )

[soggyboy]

@eefara

the seller I bought from generously included a mousepad (top-left of the book rectangle) and six bookmarks for my collection.

Yay, goodies! Are you going to learn Mandarin, or just collecting for fun?

[eefara]

Just collecting for fun! I can read very, very, very basic Mandarin, but I don’t have any plans to work on it for the moment.

[NicoleIsEnough]

Hey all, I just got this notification on Bookwalker:

[eefara]

For those wanting to buy the reprint physically, there are a few stores with exclusive bonuses, ホーリンラブブックス, ComiComi Studio and Animate. I’m still waiting on the latter to open up sales for it…

[eefara]

So I meant to post this earlier, forgot, and was rudely reminded today while reading volume 17: as part of the celebration of 王と夜啼鳥 getting bunko-fied and vol. 25 getting announced, F&B’s publisher also announced that the ebook versions of F&B would finally be getting the illustrations from the print copies put into the digital ones! (No idea why there weren’t in there before…)

Chara編集部

(The rude reminder came when my volume 17 was updated in the middle of me reading it, deleting all my bookmarks and notes up to that point. I’m going to lose everything from the previous volumes, too…)

[Belerith]

It’s too bad you lose all your notes but it’s nice we’re getting the illustrations at last…

[eefara]

Agreed! It’s a bit of a bummer, but finally having the illustrations is awesome. It’s actually going to help me out in the first few volumes; I was highlighting every word I didn’t know, and there were a lot, so my Kindle always chugs when I open those books back up.

[eefara]

I just visited 松岡先生’s Twitter on a whim and saw that she posted a bunch of stuff on Christmas last year! (No wonder I didn’t see it.) No direct link to it since she didn’t make a thread out of it, but I’m going to read through, and will post any good tidbits of info.

Edit: So she basically posted two things: a “久しぶりですね/can’t wait to see you all in 2025” couple of posts and a new short story! Lmao, can’t believe she’s posting stories on Twitter now I really hope this is the only one, I don’t want to have to go through 2500 other Tweets to find others; I’ll grab a copy and update all my notes…

Posting the text here

Posted on @matsuokanatsuki on December 25, 2024. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

「真夏のクリスマス」

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残念ながら冬のイングランド宮廷を愉しむことはできなかった。
歴史の授業で習ったところによると、チューダー朝のクリスマスは賑やかで、年明けまでどんちゃん騒ぎが続いたらしい。王宮で上演するためだろう。シェイクスピアの戯曲『十二夜』もこのシーズンのために書かれたものだ

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「もう一度暮らせって言われたらイヤだけど、クリスマスの晩餐会とか参加してみたかったな」
本当は降誕祭あたりに飲むものだとジョーが作ってくれたスパイス入りのワインをなめながら、海斗は呟いた。

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シナモンとオールスパイスが際立つ独特な味と香りは、身体を温める効果の他に、あまり質の良くないワインを飲みやすくするという目的もあるらしい。
美味しい葡萄酒を作るには少しばかり北に位置しているこの国では、それも致し方がないことなのだろう。

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ストレートで飲めるような高級品は、外国からの輸入に頼る他はない。つまり、庶民には高嶺の花だった。
「晩餐会にはどんな料理が出るって言ってたっけ？」
ジョーの問いに海斗は記憶を辿った。
「とりあえず豪華に見せるのが大事だからさ。とりあえずロースト料理が次から次に現れるよ。

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牛や豚はもちろんだけど、白鳥とかも姿焼きで」
「美味いのか？」
「まあ、大味だよね。翌日、料理人が残り物をシチューにしたやつの方が人気があったよ。俺のお目当てはやっぱりデザート……ええと、食後に出てくるお菓子でね。クリスマスならミンスパイとかドライフルーツのプディングとかかな

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スパイとかドライフルーツのプディングとかかな。でも、まあ、これもあなたが作った方が断然美味しいと思うけど」
ジョーが鼻を鳴らす。
「じゃあ、うんざりするような場所にわざわざ行くことはねえやな。俺がいくらでも作ってやるざえ」

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海斗はにっこりする。
「そう言ってくれると思ってた。じゃあ、今年の冬は楽しみにしてるね」
無事に冬を迎えるためには、まず夏に行われる戦いに勝たねばならない。それは判っていたが、どちらも口にしなかった。

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明るい未来を思い描くことで、今の不安を少しでもかき消したいという海斗の気持ちを、ジョーも理解してくれたのだろう。
「おまえさんだったら、晩餐会にはどんな料理を出す？」
ジョーの問いに海斗は首を傾げた。

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「白鳥は脂っぽかったから、普通の鶏肉で……うーん、クリーム煮もいいけど、クリスマスならワイン煮かな。それとジャガイモをふかして潰し、チーズをのせて焼いたやつも食べたいな。あと、欠かせないのはローストビーフ。表面を焼いたら、沸騰したお湯に入れてそのまま放っておくと、

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薔薇色をした柔らかいお肉になるって聞いたよ」
ジョーは頷いた。
「判った。それも全部作る」
海斗は思わずジョーに抱きついた。
「わーい」
「ちょ……」
勢いがつきすぎたのだろう。思わずよろけた料理人をしっかと抱き留めて、海斗は慌てて謝った。

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「ごめんね。嬉しさのあまり……」
「いいさ。痛い思いはしなかったからな」
すると、出入り口の方から陽気な声が聞こえてきた。
「むしろ、この上なく良い思いをしているように見えるぞ」
海斗は自分でも顔がぱあっと輝くのを自覚した。

---

「ジェフリー、おはよう……って、もう昼過ぎだけど」
寝坊が大好きな船長は気怠げに豪奢な金髪を書き上げると、海斗が持っているマグに目を留めた。
「それは？」
「スパイスワイン」
「俺にもくれ」

---

ジョーに言ったのは判っていたが、海斗は自分のぶんを差し出した。
「これ飲んでくれる？ やっぱり、俺には少し強いみたい」
「この程度で？ イングランドの赤ん坊より酒に弱いな」
苦笑したジェフリーは海斗から渡されたマグを傾け、喉の渇きを潤した。

---

まあ、アルコールだから本当に潤うわけではないが。
「もっとスパイスを利かせてもいいぞ、ジョー」
ナイジェルを主人と仰ぐ料理人は、ジェフリーに媚びることはない。

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「オールスパイスの在庫が切れかかってるんすよ。俺としちゃ、飲み物より料理のことを考えなきゃいけないんでね」
ジェフリーは顔を顰める。
「買ったらいいじゃないか……と言いたいところだが、今はそれどころの騒ぎじゃないもんな」 ジョーは頷いた。

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「穀物商は売り渋りをしてるし、スパイス商は店を閉め切ってやす。今は売り上げを増やすより、財産を守る方が先決みたいで」
ジェフリーはスパイスの粒を噛んでしまったときのように渋い顔をした。
「ため込んだところで敵に奪われたら元も子もないだろうに……」

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海斗は重くなりかけた空気を払うように元気な声を上げた。
「そうならないように俺達がいるんでしょ？ 女王陛下にも言っていたよね？ あれが嘘だったら、主君への欺瞞ってことでまた逮捕されちゃうよ」
「それだけはごめんだ」

---

ジェフリーの瞳も明るさを取り戻す。
「ナイジェルにも常々注意されてるもんな。本当のこと以外、口から出すな、って」
ジョーが大きく頷いた。
「そう、そう、旦那の言葉はいつも正しい」
「俺だって滅多に嘘はつかないぞ」
「滅多にでしょ？ そこに大きな違いがあるってもんで」

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それ以上、ジョーの忠実さを試すのは止めて、ジェフリーは海斗の手を握った。
「ここは暑いな。風に当たりに行こう」
海斗は『もう用事はないか？』というようにジョーを振り返る。料理人は唇の端を上げて首を振った。確かに彼はナイジェル・ファーストだが、ジェフリーにもかなり優しい。

---

「判った。配膳の時間には戻ってくるからね」
海斗はそう言い残して、ジェフリーと歩き出す。
「どこに行こうか。やっぱり庭がいい？」
ジェフリーは海斗の顔を覗き込んだ。
「どこでもいい。風は口実で、二人きりになりたいだけだ」

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「だと思った」
苦笑する海斗の顎を指でくいと上げて、ジェフリーは唇にキスをする。シナモンとオールスパイスの味がする口づけに、海斗はうっとりした。
「ワインは飲めないけど……この味は好き」
「だと思った」
海斗の言葉を真似して、ジェフリーは微笑む。

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誰もいない廊下で口づけを交わしながら、海斗は思った。冬が来て、スパイスワインを飲むたび、このキスのことを思い出すだろう。ミンスパイよりも、ドライフルーツのプディングよりも、自分にとってはクリスマスの味になるのだ。
（悪くない）

---

唇を離し、溜息をついた海斗は、ジェフリーの胸に頬を押し当てた。
「俺、寒いのはイヤだけど、あなたと一緒の冬は好き。今度の冬はきっともっと好きになるよ」
ジェフリーは海斗の頭を優しく撫でてくれた。

---

「今度は元気に迎えられるしな。俺も楽しみだ」
未来を語りたがる海斗の気持ちを、ジェフリーも尊重してくれる。一時、憂鬱さも恐怖も忘れて、海斗は恋人の腕の中に憩った。まあ、その中に包まれていれば、どんな季節も楽しく暮らせることは間違いなかったが。

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タイトルは『真夏のクリスマス」にしようと思います。
クリスマスの間には投稿できましたが、翌日までかかってしまい、申し訳ありません。

Edit 2: lmao there’s more. If I die in the pursuit of trying to find all of her Twitter short stories, just know I did it for you guys. o7

Edit 3: So there are 22 short stories I’ve found (some are part of a larger story, but were posted separately, so I’ve maintained that separation), including the one posted last Christmas. This is more than I anticipated, so I’m going to re-organize my spreadsheets and stuff. I’ll make a separate post here as well so everyone’s got the stories! (I’m curious how these equate to page counts, for my own tracking purposes. Anyone know any way to roughly estimate number of pages based on characters/words? I’m trying to remember what size the F&B books are printed in…)

[eefara]

Hey all! o/ I’ve been slowly but surely piecing together info for the Twitter short stories. I’ve added an extra table in the extra stories post detailing info for these, so check that out if you’re interested.

Here’s the text of the stories themselves:

VVSS-K 1 (2014-02-28)

Posted on @matsuokanatsuki on February 28, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

---

【VVSS-K】

「いつまで経っても子供で困っちゃう」
おばさまの言葉を耳にした彼は、ふいに足を止め、振り返った。
それに気づいたおばさまが明るい声で別れを告げる。
「バイバイ、海斗」
再会を疑いもしないその響き。
海斗は黙ったまま、じっとこちらを見返していた。

---

その瞬間、判ったんだ。
いや、知っていたことを確かめたと言った方がいいかな。

彼は出ていく。
どうにかして、ここを出ていく。

母親の声に振り返ったのは未練だ。
最後だと思ったから、つい反応してしまった。
彼は優しい。
優しくて、冷たくなりきれなかった。

---

そうさ。
君が諦めていないことは知っていた。
だから、僕も用心を欠かさなかった。
駐車場に止めたバイク。
おばさま達と別れた僕は、警察に捕まらないよう気をつけながら、プリマスへ急いだ。

彼は来る。
きっと来る。

前を行く車のテールランプが、ふと滲む。

---

やっぱり決心は変わらなかったんだね。
僕のためには変えてくれなかった。
その事実が胸を突き刺す。
君はジェフリーのところへ行こうとしている。
僕を残して。
こんなにも君を大事に想っている僕を捨てて。
好きになったのは僕の勝手だから、君は責められる筋合いはない。
それは判っている。

---

でも、辛いんだ。
耐えられない。
ようやく取り戻した君を、もう一度失うなんて。

君を掴まえたい。
どこにも行かないよう、どこかに閉じ込めてしまいたい。
それ以外、君と一緒にはいられない。
本当に「一緒にいるだけ」になってしまうけど、それでもいいんだ。

---

手を伸ばした先に、君の体温があれば。
君がいなかった間、僕は寒かった。
ずっと凍えていた。
一生、冬の中で暮らすのかと絶望
したこともある。
あんな思いも、もうしたくない。
君が僕を嫌っても、二度と振り返ってくれなくても、手を伸ばせば温もりは感じられる。

---

君は明るくて
君は温かい。
僕の光だ。
光を失ったら、生きていけない。
だから、決して手放せない。
ごめんね。
僕を許さなくてもいいよ。
でも、側にいて。
子供の頃のように、ずっと僕のそばにいて。
昔から僕の望みはひとつだけ。
大好きなきみと一緒にいることだけなんだ。

---

こんばんは、松岡です。
そろそろＣＤ１７巻もお手元に届いているようなので、発売記念のVVSSをツイートさせて頂きました。お楽しみいただけたら幸いです。

VVSS-K 2 (2014-06-23)

Posted on @matsuokanatsuki on June 23, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-K】

ずっと雨は嫌いだった。
でも、何日も無風状態が続いたあとのスコールだけは別。
水平線にむくむくと雲が湧き出てくるのを見るだけで、もうワクワクしちゃう。
そしてダブレットと靴をを脱ぎ捨てて、最初の雨粒が頬に落ちるのを待つんだ。

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【VVSS-K】
すぐに雨は大きさを増して、ビシ、ビシと痛いほどに強まってくる。
でも、同時に陽光に照らされつづけて、火照った肌をさましてくれるんだ。

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【VVSS-K】
まるで自然のシャワー。
この間は頭にせっけんを塗りつけて、シャンプーもしたよ。
すっげー気持ちよかった！
でも、ジェフリーとナイジェルのせいで、皆みたいに裸で浴びることができないのが玉に瑕なんだよね。

VVSS-G 1 (2014-06-23)

Posted on @matsuokanatsuki on June 23, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-G】
空を見上げて、笑い声を上げている坊やを見るのが好きだ。
もう目を開けていられない、なんて悲鳴を上げながら、決してその場を動かない。

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【VVSS-G】
ぐっしょりと濡れて、肌が透けたシュミーズ姿を他の奴らに見せたくない俺も、仕方なく傍らで濡れ鼠だ。
それでもやっぱり、どこへも行く気になれない。

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【VVSS-G】
灰色の空と違って、一片の雲も見えない坊やの笑顔を見ていたいから。
そして、目が開けられないのをいいことに、雨のカーテンに隠れてこっそりキスをする楽しみも捨てがたいから。

VVSS-N 1 (2014-06-23)

Posted on @matsuokanatsuki on June 23, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-N】
だめだ、と言うと余計したがる。
子供というのは厄介な生き物だ。
そんな風にずぶ濡れになって、風邪でも引いたらどうすると言い聞かせても、平気だよ、なんて満面の笑みを浮かべている。

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【VVSS-N】
まったく、始末におえない奴だ。
とはいえ、今すぐキャビンへ戻れと命じて、その顔を曇らせるのも大人げないというものだろう。
ずっと凪が続いて、皆の気分もくしゃくしゃしていたところだ。
上機嫌なあの子の声は、それを疾風のように吹き飛ばしてくれる。

---

【VVSS-N】
仕方ない。
うっかり風邪でも引いたら、俺がつきっきりで看病してやろう。
もう馬鹿げた真似はしませんと誓うまで、傍らでとくとくと諭してやる。
覚悟しておけ。
まあ、風邪を引かないのが一番なことは言うまでもないがな。

VVSS-V 1 (2014-06-24)

Posted on @matsuokanatsuki on June 24, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-V】
修道士らが礼拝に赴く朝まだき、あの子は散歩に行きたがる。
まだ夜の帳が下ろされたままの空を見上げ、微かな星の瞬きに見入る。
夜明けを告げる鳥の囀り以外には、ただ静寂があるばかりの一刻。
私もどれほどそれを愛しただろう

---

【VVSS-V】
静かな朝。

それは船の上では望むべくもない贅沢だった。
だが、ときおりそんな一刻が恐ろしく感じることもある。
山から下りてくる冷たい靄がしん、と庭園を包み込んで、あの子の姿を隠してしまうときだ

---

【VVSS-V】
不安になって、彼の名を呼ぶ。
返事がない。
焦って、 もう一度呼ぶ。
遠くで「なあにー」とのんびりした声がする。
私はそれだけを頼りに走り出し、靄の中でもやはり空を見上げている少年を探し出して、ほっと息をつく。
まったく、こちらの気も知らないで。

---

【VVSS-V】
なにを見ているのかという問いに、あの子はいつも肩を竦めるだけだった。

星のはずがない。
夜明けの光でもない。

ただ画布のような靄に誰かの面影を描いていただけなのかもしれない。
そう、誰にも妨害されないところで

---

【VVSS-V】
だが、邪魔者の私をあの子は責めなかった。
いつも、山の靄の方がちょっと冷たいね、と言うだけで。
私は華奢な彼の身体を抱き寄せる。 鬱陶しげな顔をするけれど、やはりあの子は突き放したりはしない。
口ではあれこれ言うけれど、本当は優しいのだ。
それは知っている

---

【VVSS-V】
風が靄を払って、朝日が山の稜線を照らし出す。
煌めく光に包まれた少年は、眩しそうに目を細める。

その睫毛の微かなそよぎを、今も覚えている。

今でも 思い出すたびに、私の胸はうち震える。

とても幸福な夏だった

VVSS-C 1 (2014-06-25)

Posted on @matsuokanatsuki on June 25, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-C】
この体験をいずれ舞台として昇華させる、ゆえにどんな汚れ仕事もこなしてみせる！、と宣言した俺に、坊やが言った。

「つまり、シュザイだね」

---

【VVSS-C】
なんだ、それはと聞く俺に、坊やは懇切丁寧に教えてくれた。
なんでも「登場人物にいかにも存在しそうな肉付けをするために、彼が就いている仕事などの調査を行うこと」らしい。
そうだ。
まさにそれだ。

---

【VVSS-C】
とはいえ、まだどんな話にするのかも、どんな人物を登場させるかも定かではない。
だから、俺としてはなんでも見ておく必要がある。
すると、 「観察だけじゃなく、『いんたびゅー』もしてみたら？」 坊やはまた新たな提案をしてきた。

---

【VVSS-C】
ちなみにそれは興味のある人物に面談し、掘り下げた話を聞くことらしい。

掘り下げる……ね。

そいつは実に俺好みだ。
というわけで、俺は主だった役付きに話を聞きに行くことにした。

---

【VVSS-C】
まずは近くにいるあいつにしよう。
ちょいと旦那、仕事をしながらでいいから、話を聞かせてくれないかい？

---

【VVSS-C】
んあ？
帆職人ってのは、どんな奴らかって？読んで字のごとくよ。
このぶっとい針で航海中の嵐で破れた帆を繕ったり、新しい帆を縫い上げたりするのさ。

---

【VVSS-C】
メイトがよく「そのうるさい唇を帆針で縫ってやろうか」って言うだろ？
けど、いざ本当に縫うはめになったら、やるのは俺になるだろうな。
厚みのあるもんを縫うのって、結構力がいるんだぜ。
女みてえに針仕事をしてるからって、馬鹿にしちゃなんねえのが俺達ってわけよ。

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【VVSS-C】
了解。

帆職人にはうっかりケンカをふっかけないこと。

俺は見えないペンで心に記した。
そして、次なるシュザイ対象を探しにいく。
ああ、あいつなんか良さそうだ。

---

【VVSS-C】
操舵手を一言で言い表せだあ？
おめえ、頭がいいって触れ込みだけど、そうでもねえな。
いいか、馬車でいうところの御者が、船の舵取りよ。
メイトの指図で進路を保ったり、変更したり、行き先まで平穏無事に船を操るのが仕事さ。

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【VVSS-C】
ああん？
しょっちゅうピリピリしているメイトの近くにいて、疲れないかって？
けっ、おまえさんじゃ、あるまいし。
こちとらがきちんとしてりゃ、あれほど頼りになって親身な御方はいねえ。

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【VVSS-C】
そりゃ、あからさまに優しいところを見せるお人じゃねえけどよ。
夜風が冷たくて、うっかりくしゃみなんかすると、呪われろってな顔をしながらも、当直明けにはブランデーを一杯めぐんでくれるってな感じでさ

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【VVSS-C】
まだまだシュザイを続けたいところだが、あいにく他のお目当ては仕事中で邪魔はできない。
そこで俺は命じられた甲板磨きをしながら考えた。

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【VVSS-C】
どうにも私情を捨てきれない俺は、ついメイトの話に持って行きたがる。
すると、水夫達は口を揃えて、そりゃおっかねえ人さ、と言う。
でも、あとに必ず付け加えるんだ。
しっかり仕事をしていれば、ちゃんと労ってくれるし、ほめてもくれる、と。

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【VVSS-C】
本当にそうだろうか。
俺にだけは違うんじゃないだろうか。

冷ややかな態度を向けられるのがあたりまえの俺は、そんな疑問を禁じ得ない。
そこで本気で掃除をしてみることにした。まあ、今までもふざけてたわけじゃないんだがな

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【VVSS-C】
甲板は当然のことながら木でできている。歩き回っていればすり減り、ときにはささくれ立つ。
俺はそうしたささくれを石で丁寧にこすり取り、タールのしみも徹底的に拭き取った。
結果、女王陛下の顔を映す鏡だって、これほどには輝いていないはずだと思えるほどに綺麗になった

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【VVSS-C】
だが、その上をカツ、カツと派手に長靴の踵を打ち鳴らして歩いてきたメイトは、甲板に跪いている俺を一顧だにせず、水夫長に話かけた。

やっぱな。
判っていたはずだけどな。

俺は溜息をついて立ち上がった。
しかし、そのときだ

---

【VVSS-C】
「そこの新入り、滑り止めの砂を用意しておけ」
そうメイトから声がかかった。
「もしもの用心だ。スペイン野郎をこの船に乗り込ませるつもりはないが」
俺が 船乗り式にアイと返事をすると、灰青色の瞳が僅かに明るく輝いた。

---

【VVSS-C】
「ふん、鏡のように甲板を磨いても、砂を撒かれれば台無しだ。せいぜいそうならぬよう、祈っておくんだな」
俺は思わず瞬きをした。

見てた。
ちゃんと判ってたぜ。

でも、俺が無神論者だってことは忘れているみたいだけどな

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【VVSS-C】
話を聞いていた操舵手が、「言った通りだろ？」というように片方の眉を上げてみせる。
ああ、嘘じゃなかった。
俺は嬉しくなって、また船乗り式の返事をする。
「アイ・アイ・サー！」

---

【VVSS-C】
正直、自分がこの仕事に向いているとは思わない。
けれど、同じ船に乗ったからこそ、そして仲間になったからこそ体験できることがある。
それが判っただけでも、水夫見習いになった価値はあったよ

---

【VVSS-C】
「ねえ、シュザイはどうだった？」
もし、赤毛の坊やが聞いてきたら、俺は迷わず答えるだろう。

大成功さ
やっぱり話に聞くだけじゃ、判らないことってあるんだな。

きっと坊やはしたり顔で頷くだろう。彼の恋人によく似た仕草で。

VVSS-G 2 (2014-08-21)

Posted on @matsuokanatsuki on August 21, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

---

【VVSS-G】
甲板に坊やが転がっていた。
正確には吊されたボートが生み出す影の中で。
赤い髪を潮風に委ねて、すやすやと居眠りをしている。
傍らには当然のように子猫が丸まっている。
「ふむ……」
おい、おい、そこは俺の場所だぞ、と子猫をつまみ上げるのは、さすがに大人げない。

---

【VVSS-G】
そこで俺は子猫の横にごろり、と横たわった。
敏感な獣はぴく、と耳を動かし、薄目を開けた。そして、俺を見た途端、びっくりしたように飛び上がって、どこかへ走り去っていく。
つれないな。
喰われるとでも思ったか。
まあ、俺には好都合だったけどな。

---

【VVSS-G】
自分の場所を取り戻した俺は、風に揺れる坊やの髪に手を伸ばす。
子猫を愛撫するように、そのつややかな毛並みを撫でる。
「ん……」
坊やは気持ち良さそうに溜息をついて、寝返りを打った。
そして俺の胸元に顔を埋めると、またすうすうと寝息を上げ始めた。

---

【VVSS-G】
白い子猫と違って、驚きもしない。
嫌がったりもしない。
なぜなら、坊やにとってもそこは『自分の場所』だからだ。
安心しきった顔を見下ろして、俺はそっとその頬に口づける。
ぎゅっと抱き締めて、唇を吸い上げたかったけれど、そうしたら起きてしまうから。

---

【VVSS-G】
水夫達の足音も遠い、影の天蓋の中。
俺も眠たくなってきて、目を閉じた。
本当はずっと坊やの顔を見たかったが、今ならば夢の中でも会えそうな気がして。
穏やかな風が二人をふわりと包み込む。
天国という場所があるとすれば、きっとこんな感じなんだろうな

VVSS-K 3 (2014-10-04)

Posted on @matsuokanatsuki on October 4, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

---

【VVSS-K】
おまえの生まれた世界では、恋人達はどんな誕生日を過ごすんだ？

うーん、一般的には花とプレゼントを買って、素敵なレストランでキャンドル・ディナーかな

レストランというのは？

ぴったり当てはまる言葉が見つからないんだけど、宿屋づきの食堂みたいなところかな

---

【VVSS-K】
ふーん。キャンドル・ディナーっていうのは？

それは言葉通り。テーブルに蝋燭をともして、食事をするの。未来には電気っていうものがあって、みんなそれを使っているから、蝋燭を用意する方が特別、って気分なんだよ

プレゼントはどういうものが人気なんだ？

---

【VVSS-K】
女の人ならアクセサリーかな。男の人はうーん……香水とか貰っているみたい

みたい？

俺、そういう誕生日は経験したことない

uh-oh

笑うな

失礼。つい嬉しくなってな。俺の嫉妬深さは知っているだろ

mm hmm

いいな。響きが

---

【VVSS-K】
おまえには専用の浴室をやると約束したが、他に欲しいものはないのか？

ない

欲のない奴だ。よく考えろ。今、俺はとてもいい気分で、おまえにねだられたら何でもやろう、という衝動にかられている

衝動？

同じぐらい、おまえにキスをしたいという思いに駆られているが

---

【VVSS-K】
なんでしないの？

おまえの可愛い徴発に乗る前に、もう一度聞くぞ。欲しいものはないのか？

ものはいらない。一緒にいてくれたら、それでいい

おまえは天使だな。そんなものが存在するとして、だが

その形容、断りを入れなきゃ、使えないの？

---

【VVSS-K】
長年育んできた無神論者の評判を落としたくないんでな

ur-oh

笑ってろ。おまえのそういう顔が一番好きだ

---

【VVSS-K】

そう言って、恋人は俺にキスをした。
今度こそ衝動にかられるままに。

後で教えてあげよう。
これが誕生日にも最適のプレゼントだって

VVSS-La mémoire de B 1 (2014-10-30)

Posted on @matsuokanatsuki on October 30, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

---

【VVSS『La mémoire de B』】

俺の名前はブレナン
春先からプレシャス号、いや実のところはグローリア号に乗り込んでいる大工見習いだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】
俺の親方は『実地で経験を積むのが一番だ』っていう信条の持ち主で、弟子は皆、知り合いの船大工がいる船に送り込まれ、そこで航海ができなくなる夏の終わりまで修行することになる。
こちとらには一切相談もなく、だ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

ま、そいつが徒弟制度ってもんよ。
水夫、それも私掠船乗りならもっと自由気ままにやれるんじゃないかって、ちょっぴり期待していたんだけど、やっぱり親方である船長には絶対服従しなくちゃならない。ったく、生きにくい世の中だぜ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

さて、俺がこの記録を書こうと思い立ったのは、俺と同じ新入りの言葉がきっかけだった。そいつはロンドンで芝居を書いているっていう変わり者なんだが、いつだったか、こう言ったんだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

『実際に参加した者による対スペイン戦争ネタは絶対に受ける。芝居は無論のこと、メモワールを出せば間違いなく大当たりだぜ』

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【VVSS『La mémoire de B』】

メモワールって何だって、思うよな。イングランド語じゃねえし。後でそいつに聞いたら、後から大事件のことを振り返った記録みたいなもんだって教えてくれた。ちなみにフランス語だそうだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

とことん食い詰めたのか、今は見習い水夫なんぞに身をやつしているが、実は大学卒らしい。
な、やっぱ変わり者だろ？

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【VVSS『La mémoire de B』】

さて、俺ら船大工は図面を引けなきゃ、商売にならねえ。先達の残した仕様書なんかも読む必要がある。そこで親方はこれと見込んだ弟子をグラマースクールに通わせ、読み書きや計算なんかを覚えさせた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

そいつが教師役になって他の弟子にも文字を教えりゃ、一石二鳥。働き手を確保したまま、工房の質を向上させることができる。そして、長年教師役を務めていた兄弟子の独立をきっかけに、久々にグラマースクールに送り込まれたのがこの俺、ってわけだ

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【VVSS『La mémoire de B』】

「芝居が大当たりしたら、どれぐらい儲かるんだ？」
俺の質問に、見習いは答えた。
「芝居の値段は一律なんだ。十ポンド。だが、劇場に出資してりゃ、配当金が貰える。客の数が増えりゃ、懐に入ってくる金額も尻上がりに大きくなるさ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「へえー」
気のない返事をしながら、俺は内心目を剥いていた。十ポンド！ そんな大金、目にしたこともねえ。そう思ったら、心の中にむくむくと欲望の雲が湧いてきたというわけだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

劇場に足を踏み入れたことのない俺に芝居は書けない。だったら、メモワールで勝負ってわけよ。
でも、俺は忘れっぽいから、後から思い出して書くっていうのは不安だった。

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【VVSS『La mémoire de B』】

そこで忘れないうちに記録できる『日記』って手法を使うことにした。
さらに言えば、俺は飽きっぽいので、普通の日記じゃ三日と続かない。
だからこの帳面を気の置けない相棒に見立てて、酒場で話をしている風で書くことにした。

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【VVSS『La mémoire de B』】
よーし、兄弟、一杯やれよ
今朝方の話でもしようぜ。

と思ったら、総員集合がかかっちまった。こうしちゃいられねえ。
続きはまた明日な

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こんばんは、松岡です。
いきなりの連投で申しわけありません。２３巻発売記念のVVSSです。明日、明後日で完結予定なので、しばらくおつきあいくださいませ。

こちらに来られない間もメッセージをありがとうございます。
タイミングを逃してしまい、お返事できず、すみませんでした

VVSS-La mémoire de B 2 (2014-10-31)

Posted on @matsuokanatsuki on October 31, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS『La mémoire de B』】

船大工助手を務める俺の師匠はトーマス。
そして水夫見習い兼劇作家のキットは、おかしらのキャビンボーイを務めているカイトの弟子だ。

「また手抜きをしたね、キット。この部屋はどういう形をしてる？」

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【VVSS『La mémoire de B』】

昨日の朝、新入りのキットと俺は、町外れにあるおかしらの豪奢な屋敷、その二階を掃除してた。
お目付役のカイトと共に。正確に言うと、俺の担当は廊下。そして、キットはずらりと並ぶ客間を受け持っていた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

つまり、俺は廊下から二人の会話を盗み聞きしていたってわけよ。
「んー、四角っぽいかな」
「ぽいじゃなくて、四角！ つまり、四つの角がある。ゴミはそこに溜まりやすいんだって、前にも教えたよね」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「はい、はい」
「返事は一回、ってナイジェルに言われたろ？」
「はーい」
「だらしなく、のばさない！」
「やれやれ、おまえさんがジェフリーに気に入られた理由が判ったぜ。細かいところがナイジェルそっくりだ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「俺なんか、足下にも及ばないよ」
「小言ばっかりで、全然褒めてくれないし」
「褒めるようなことをしてないからだろ」
ぽんぽんと交わされる言葉に、俺は思わず吹き出した。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「それに怒られるのが嫌なら、何であなたはナイジェルを好きになったんだよ。息するみたいに小言を言う人なのに」
「俺みたいな奴でも真剣に怒ってくれるんだって、胸がきゅんとするから……？」

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【VVSS『La mémoire de B』】

『サビシガリヤのてぃーんえいじゃーカヨ』
カイトはぼそりと呟いた。たぶん、彼が生まれたというジパングの言葉だろうな。
「なんだって？」
「何でもない。そっちこそ何で疑問形なんだよ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

実は俺もよく判らなくてさ」
「あなたにも判らないことが、俺に判るはずないじゃん。それより、いい？ ナイジェルも絶対に隅っこからチェックするよ。怒られたくなかったら、今度こそ忘れないで」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「本当におまえさんだけが頼りだぜ。大学じゃ、甲板掃除の細かい作法なんざ、教えてくれなかったからな」
「もしかして、馬鹿にしてるの？」
「違うって！」

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【VVSS『La mémoire de B』】

そんな風に二人がふざけあっていると、俺の背後から地獄の亡者のようなうめき声が聞こえたんだ。
振り向いた俺はあんぐりと口を開けて、凍りついちまった。
「ずいぶんと楽しそうだな、おまえたち……」

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【VVSS『La mémoire de B』】

隣の部屋で寝ていたおかしらだった。よろよろと俺の脇を通り過ぎ、カイト達がいる部屋の扉枠に寄りかかる。
一応、身体にシーツを巻きつけてきたつもりなんだろうが、片方の肩ははだけ、胸元はむき出し、その上足も太腿まで見えていた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

何というか、目のやり場に困る。
けど、実際には目を外せなかった。

おかしらの身体には拷問でつけられたという惨い傷がそこここにあったが、少しも頓着した様子がないのが最高にいかしてたから。

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【VVSS『La mémoire de B』】

女にも滅多にいねえような綺麗なツラをしていなさるが、なまじの男じゃ太刀打ちできないほど強いお人だ。

ここだけの話、悩ましい寝起き姿も相まって、俺は何だかどぎまぎしちまった。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「ジェフリー、回れ右して、部屋に戻って」
カイトも同じ気持ちだったらしい。頬を真っ赤にして訴えてた。
「眠いんなら、まだ寝てていい。起きるんだったら、きちんとした格好をして。屋敷には兄弟も出入りしているんだ。示しがつかないだろ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

キットが口笛を吹いた。
「ほらな。やっぱりナイジェルそっくりだ」
その瞬間、カイトとジェフリーが同時に言った。
「口笛は止めて」
「口笛は止めろ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

気の合う二人。
そうよ。兄弟の間じゃ、知らぬ者はいねえ。おかしらとカイトが愛し合う仲だってことはな。
ま、表向きグローリア号じゃ禁じられているが、船の上じゃ珍しくもねえこった。だから、誰もヤボは言わねえ

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【VVSS『La mémoire de B』】

「癖になったら、甲板でも吹くようになる。そうしたら、すかさずルーファスの鞭打ちを食らうぞ」
おかしらの忠告に、馬鹿なんだか勇敢なんだか判らないキットが聞いた。
「何で口笛を吹いちゃいけないんだ？」
「嵐を起こす悪魔を呼ぶからだ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「それ、真面目に言ってるのか？」
「俺はともかく、水夫どもは信じてる」
「俺も信じてるよ」
すかさずカイトが言った。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「グローリア号に乗った日、つい口笛を吹いたんだ。そうしたら、ビスケー湾に入るなり、嵐になった。おかげで俺は酷い船酔いを起こして、死にそうになったんだ」
すると、おかしらが上機嫌に笑った。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「俺が手ずから看病してやったな。ぐずるおまえにワインを飲まして」
「そうだったね……皆に穀潰しって思われている中、あなただけが俺を庇ってくれていた。だから、俺もすっかり頼ってしまって……」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「あのー、朝も早よから甘ったるい雰囲気を醸し出すの、止めてくれませんかね？」
キットが俺の心を代弁してくれた。
何というか、いたたまれない。
ずっと聞いていたら、床でのたうち回ることになりそうだ……と思ったそのとき、

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【VVSS『La mémoire de B』】

「おっと、うるさいのが来た」
おかしらは廊下の先に人影を発見すると、カイトの手を取って回れ右をした。
「お勧めに従って二度寝するよ。おまえがうるさくして起こしたんだから、もう一度寝かしつけてくれ」
「ちょ……！」

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【VVSS『La mémoire de B』】

抵抗する間もなく赤毛の少年を飲み込んでバタンと扉が閉まるのと同時に、取り残された俺とキットの背後から雪嵐もかくやという声が響いた。

これって、やっぱ口笛のせい？

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【VVSS『La mémoire de B』】

「貴様、俺がいないと掃除一つ、満足にできんのか」
キットは勇気を振り絞って振り返った。
「ジェフリーに……」
「馬鹿者！ キャプテンに、だろうが！」
「アイ・サー。キャプテンに話しかけられまして」
「口を動かしながら、手も動かせ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「アイ・アイ・サー」
それからメイトは甲板ならぬ床に膝をついて、必死に拭き掃除をしていた俺に目を留めた。
「ブレナンか」
「アイ・サー！」

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【VVSS『La mémoire de B』】

おそるおそる顔を上げると、意外だったことにメイトは微笑んでいた。

すっげーぞ。

いい男はむすっとしていてもいい男だが、笑うと目の前に星が飛ぶぜ。本当の話、あんまり眩しくて、手を翳したくなるほどだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「下働きのような真似をさせてばかりでは、おまえの師匠に申しわけがたたんな」
俺はどぎまぎしながら言った。キャプテンといい、メイトといい、朝から刺激が強すぎる。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「き、気にせんでくだせえ。俺、掃除は嫌いじゃねえんで。大事に使えば、船も家も長持ちしやすからね」
「いい心がけだ」
僅かに腰を屈めたメイトは、俺の肩をぽんと叩いてくれた。
なんか嬉しい。超うれしい。

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【VVSS『La mémoire de B』】

そして、メイトは迷うことなく客間に入り、部屋の隅に足を向ける。

カイトの言った通りだ。

万事休すと、キットが目を瞑るのが見えた。
「あの、サー」
俺はこれ以上、兄弟が怒られる姿を見るのは忍びないので、メイトに言った。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「ちょっくら失礼して、桶の水を変えてきやす」
「ああ」
急ぎ足で客間を離れる俺の耳に、また激しい雪嵐の気配が届いた。

まったく夏を迎えたばかりだっていうのにな。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「頑張れ、兄弟」
そう呟いてから、俺は気づいた。

それでも大好きなメイトと二人きりになれるなら悪くはないと、キットなら思うのかもしれない、と。

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【VVSS『La mémoire de B』】

小言を言われるのが好きだなんて、本当に変わった男だと思わねえか。

いや、変わってるというより、おかしな奴だよな。
こちとらは見てて楽しいけどよ。

VVSS-La mémoire de B 3 (2014-11-01)

Posted on @matsuokanatsuki on November 1, 2014. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, just one correction for a missing line.)

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【VVSS『La mémoire de B』】

赤毛の坊やはいろんな遊びを知っている。

ジパングでも流行したっていう『アッチムイテホイ』は、グローリア号の兄弟をしばらく熱狂の渦に叩き込んだもんだ。
中でも負け知らずを謳われたのはユアンの兄貴だった。

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【VVSS『La mémoire de B』】

同時に差し出す指の形で勝敗を決める『ジャンケン』の強さもさることながら、勝った方が負けた方の頭を厚手の布を巻いた棒で叩く手の素早さや、そいつを避ける盾代わりの鍋の蓋を頭に翳す動きの滑らかさが尋常じゃねえ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「すごいな、ユアン。どれ、俺も腕試しをしてみるか」

こういうとき、おかしらは喜んでゲームに参加する。
ただ身体が本調子じゃねえから、蓋を持ち上げるのが上手くいかなくて、取り落としちまったりもするんだ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

いつだったか、俺が見ていたときもそうだった。
対戦相手が慌てて棒を持った腕を止めると、おかしらは首を傾げて、悪戯っぽく言ったんだ。
「馬鹿だな、アーニー。何の罰則も受けずに船長を叩く機会を逃すのか？」
「おかしらぁ……」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「妙な気を回すなよ。そら」
おかしらは両手を広げて、目を閉じた。
存分に打ち込め、ってポーズだ。
「無理っす、おかしら」
アーニーの兄貴は音を上げた

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【VVSS『La mémoire de B』】

ま、気持ちは判るよな。
やれと言われて、はいそうですかと思い切り打ちかかったら、人としてどうかと思うし。
「やれやれ」
おかしらは目を開け、しゅんと俯いた兄貴を見ると、ふいに腕を伸ばした。

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【VVSS『La mémoire de B』】

そして、二人の間にある棒と蓋を置いておくための台越しに、ぐいと引き寄せた兄貴の頭にキスをしたんだ。
「ありがとよ、兄弟。一発免除してもらった礼だ」
それから、おかしらは呆然としているアーニーの兄貴に背を向けて、俺達に言った。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「さて、お次は誰だ？」

この先の顛末は想像に難くないだろ？
ちょっくら性悪なおかしらにからかってもらいてくて、我先に殺到する兄弟達でそりゃもう大変な騒ぎだったぜ。

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【VVSS『La mémoire de B』】

おい、おい、確かにおかしらは美人さんだが、男だってことを忘れてないか。

冷静に考えると、ちょっくらおかしいよな、うちの連中って。
まあ、俺も気がつけば俺も兄弟達と押し合いへし合いしていたから、人のことは言えないんだけどよ

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【VVSS『La mémoire de B』】

その一方で、立場を重んじるメイトや水夫長は、今書いたみたいな馬鹿騒ぎには滅多に参加しない。まあ、どっちも遊ぶ間も惜しんで働くようなお人だからな。

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【VVSS『La mémoire de B』】

(Missing line re-added; see tweet at very bottom) [それでも、チェスは好きで、ときどきしているらしいんだが。]
「きっと頭もいいんだろうさ。俺も面白そうだなとは思うけど、ルールを覚える自信がねえ」
なんかの拍子に、俺はそうカイトに言った覚えがある。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「ブレナンならすぐに覚えられると思うけど、もっと簡単なゲームも知ってるよ。同じチェス盤を使うんだ。やってみる？」
「おおよ」
カイトは水夫長お手製のチェス盤と、誰かが書き損じた羊皮紙、そして消し炭を持ってきた。

---

【VVSS『La mémoire de B』】

「文字の書いてある方に、これを塗って黒くして」
俺はそうした。
カイトは表裏で色が違う紙を、チェス盤のマス目より小さな四角に切り分けると、チェス盤の真ん中に置いた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

んー、絵にするとこんな感じだ。

●○
○●

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【VVSS『La mémoire de B』】

「ブレナンはどっちの色の駒が好き？」
「黒。強そうだから」
「判った。じゃあ、俺は白ね」
カイトは白い面を上にした紙を、黒を上にした紙の横に置いた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「こうやって自分の駒を相手の左右や上下に置くと、挟まれた駒を自分のものにできるんだ。そうして相手よりも一枚でも多く駒を自分のものにした方が勝ち」
俺は目を見開いた。
「それだけ？」

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【VVSS『La mémoire de B』】

カイトはにっこりする。
「簡単でしょ？ リバーシっていうゲームだよ」
「アイ」
むしろ単純すぎてつまらないんじゃねえかと思ったが、やってみるとこいつが中々面白い。

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【VVSS『La mémoire de B』】

うっかりすると、あっという間に大量の駒を取られちまったりして、全然気が抜けねえんだ。
「あー、くそ！ また負けた！ カイト、もう一回！」
「いいよ」
今度こそ、次こそはと勝負を挑むんだが、一向に勝てない俺。

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【VVSS『La mémoire de B』】

カイトはそんな俺に嫌な顔ひとつせず、つきあってくれた。
いい子だよな、ホント。
海千山千のおかしらも惚れるわけだよ……って思っていたら、
「何をしている？」
ふいにメイトが現れた。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「す、すいやせん！」
反射的に俺は立ち上がっていた。
よく考えれば俺は当直外、って、ここは船じゃねえんだけど、とにかく休み時間だったから、別にカイトと遊んでいたって、謝る必要なんかなかったんだけどな。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「ブレナンとリバーシをしてたんだ」
俺と違って、メイトといても全く緊張しないカイトが、にこにこしながら説明する。
「チェスで何手も先を読めるあなたには退屈なゲームだと思うけど、俺達には丁度いいんだ。ね？」

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【VVSS『La mémoire de B』】

同意を求められた俺もまたにっこり笑って頷いた。
「アイ。すっかりはまっちまった……ぜ」
言いながらメイトに視線を戻した俺は、背筋が凍る思いがした。
日記をつけ始めてからもう何度も書いているが、まだ夏を迎えたばかりだっていうのに！

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【VVSS『La mémoire de B』】

それはキットを見るまなざし。
いや、それよりもなお冷たい、怒りに満ちたまなざしだった。

一体、俺は何をしでかしちまったんだよおお？

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【VVSS『La mémoire de B』】

「退屈なんてことはないぞ、カイト」

その答えはすぐに出た。

「やったことのない遊びは、新鮮な喜びを与えてくれるものだ」

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【VVSS『La mémoire de B』】

そうか。メイトもリバーシをやってみたかったんだ。そうだよな。いくら美味しいからって、同じものばかりを食べていると飽きてくる。別のものも食べてみたくなるもんな。
「ど、ど、ど、どうぞ、メイト」
狼狽した俺は椅子を勧めながら言った。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「俺の仇を討って下さい。まだ一度も勝てねえんです」

その瞬間、メイトの身体から立ち上っていた怒りの気配は、ふいに霧散した。
何というか、扱いは至極難しいんだが、わかりやすいお人ではあるよな。

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【VVSS『La mémoire de B』】

「仕方ないな」
口調だけは渋々といった体だが、いそいそと椅子に座ったメイトは、ルールをカイトから教わると、先程の俺よりもゲームにのめり込んでいった。

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【VVSS『La mémoire de B』】

わかりやすい上に、案外可愛いお人だ。

その頃には俺も冷静さを取り戻していた。
メイトはリバーシをしたかったんじゃない。カイトと一緒にいたかったんだ。
俺に向けられた冷たいまなざしは、嫉妬ゆえのものだったんだろう。

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【VVSS『La mémoire de B』】

メイトは心得たお人だ。他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しい。
一緒にいるのがおかしらなら、部屋に入ってきたりもしなかっただろう。
でも、カイトが笑いかけていたのは俺だった。

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【VVSS『La mémoire de B』】

だから、我慢ができなかったんだろう。
おかしら以外の誰かに、カイトと共に過ごす一刻を奪われたくなかったんだ。

「よし！」
やがて、コツを飲み込んだメイトが勝利を収めた。
「仇を討ったぞ、ブレナン」

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【VVSS『La mémoire de B』】

「さすがはメイト！」
拍手をする俺に、カイトが目顔で『ごめんね』というように合図をしてきた。
だから、俺もメイトに気づかれないように微笑み、そっと肩を竦める。
仕方のないお人だよな、というように。

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【VVSS『La mémoire de B』】

カイトの瞳が同感に煌めくのを見つめながら、俺は思ったね。
自分に備わった魅力を理解した上で兄弟をからかうおかしらは、確かにちょっくら性悪だ。
でも、自分では全く意識することなく魅力を振りまくカイトも、ちょっくら罪作りだよな。

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【VVSS『La mémoire de B』】

ともかく、俺が乗ったのは想像していたより奇妙な船だった。
運命を共にする兄弟も変わった連中揃いだし。
でも、俺はそんな船も兄弟達も気に入っている。
修行期間が終わっても、このまま皆と航海を続けようと思うほどにはな

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こんばんは、松岡です。
２３巻発行記念VVSSにおつきあいくださいまして、ありがとうございます。
今日も連投でTLを荒らしてしまい、申しわけありませんでした。

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すみません、コピペしわすれた一行がありました。

ルールを覚えられない、とブレナンがカイトに言っている前に、

それでも、チェスは好きで、ときどきしているらしいんだが。

という一文が入ります。
あとミスタイプもありました。
そちらもごめんなさい。

VVSS-K 4 (2015-02-27)

Posted on @matsuokanatsuki on Feb 27, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-K】

ジェフリーにはまだ早いんだけど、なんてうっかり力自慢の兄弟に腕立て伏せと腹筋および背筋を教えたら、すぐに競争みたいになった。俺も人のことは言えないけど、男ってのは単純だな。

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【VVSS-K】

一番熱心なのは、「娘婿になろうなんて太ェ野郎をぶっ飛ばすため、今から鍛えておかねえと」と称する水夫長。今も呆れ顔のユアンに腕立て伏せの回数をカウントさせて悦に入っている。

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【VVSS-K】
一方、表立って騒ぐことはできないが、心密かに隻眼の航海長を慕っている水夫達は、腹の上に眠ったブラッキーを乗せて、起こさないようにそーっと足上げ腹筋をしているナイジェルを見て、上げ潮のように込み上げる感情に身もだえていた。

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【VVSS-K】

普段は「カワイイ」の対極にある航海長だけど、これは参らずにはいられないよね。
さて、空前のエクササイズ・ブームに湧く兄弟を見て、負けず嫌いの船長の心にも火が点いたみたいだった。

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【VVSS-K】

「腕立て伏せはともかく、俺も腹筋ならできるぞ」
片足を曲げ、腰を捻りながらジェフリーは文句を言う。
「なあ、一度やらせてくれ。『すとれっち』とやらには飽きた」
俺は考えた。肋骨の骨折は治っている。腹部に大きな傷もない。確かに腹筋はできそうだ。

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【VVSS-K】

ただし、体力が落ちている今、続けて何回もできるかは疑問だが。
二、三回で音を上げるようなことになれば、かえってプライドが傷ついてしまうのではないだろうか。
そこで俺は考えた。

ジェフリーの気を逸らそう。

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【VVSS-K】

「判った。肋骨にあまり負担をかけたくないから、皆がやっているのとは違う腹筋にしよう」
「ほう、特別か」
「アイ。あまり他の人にはしたくないな」
俺は横たわったジェフリーの膝を曲げさせた。そして、屈折した両足を抱えるようにして座る。

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【VVSS-K】

「まずは手を使って起きてみて……そう……で、頭の後ろで手を組む。そうしたら、次はお腹の筋肉を使って後ろに倒れて……ああ、床まで倒れなくていい……うん、途中で止めて、また起き上がる。あとはその繰り返しだ」

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【VVSS-K】

指示通りに少し後ろに倒れてから、また身を起こしたジェフリーは、彼の膝を抱えている俺の顔を覗き込んだ。
「意味が判った」
「何の？」
「絶対、他の奴にはするな。これだけ顔が近いと、キスの誘惑に駆られるかもしれん」

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【VVSS-K】

「アイ・アイ・サー」
「他の奴はともかく、俺は耐えられん。くそっ」
頭の後ろで組んでいた手をほどいたジェフリーは、くすくす笑う俺の頬を両手で挟むと、触れあわせるだけのキスをする。

ふふふ、計算通り。

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【VVSS-K】

ジェフリーはもはや腹筋のことを忘れかけている。好意を逆手に取ってと後で非難されるかもしれないが、俺は構わない。大事なのは恋人の体調だ。甘やかすつもりはないが、無理をさせるつもりはさらにない。

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【VVSS-K】

急がば回れ。ケイシャも言っていたが、柔軟で持久力のある良質な筋肉は、一朝一夕では得られない。まずは我慢だ。
それをジェフリーだけに強いるつもりはない。何事も分かち合ってこその恋人だ。
ストレッチに飽きたとグズる子には、ちょっとした気晴らしを与えればいい。

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【VVSS-K】

「起き上がるたびにキス一回だ。それなら飽きずにやっていられる」
僅かに顔を離して、ジェフリーが言った。
「何回もしたら、唇が腫れ上がっちゃうよ」
「だったら、二回に一度」
「三回に一度。これもリハビリだからね」
「判ったよ」

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【VVSS-K】

完全に横たわった姿勢から起き上がるよりは負担が少ないから、腹筋の回数も稼げるだろう。それがジェフリーの自信にも繋がるはずだ。
「いーち……にー……さーん」
回数を数える俺の唇に、少し息を荒げたジェフリーの唇が重なる。

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【VVSS-K】

「いーち……にー……さーん」
もういちど。今度は唇だけではなく、顔のあちこちにジェフリーは口づけてきた。膝を抱えている俺は身動きができないから、されるがままだ。

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【VVSS-K】

「いーち……にー……さーん」
八セット目でジェフリーは自らの頭を支えていた手をのばし、もう一度俺の頬に触れた。
「降参？」
「今日のところは……悔しいが、腹や腰が悲鳴を上げている」
「早速、効果が出たんだね。腹筋を鍛えると、腰を支える力も強くなるんだ」

---

【VVSS-K】

親指で頬を優しく撫でながら、ジェフリーは微笑む。
「賢い坊や。駄目と言われれば余計したくなる俺を知っているな」
「意欲があるのはいいことだからね」
「出来の悪い弟子ですまないな」
「そんなことない」

---

【VVSS-K】

俺はジェフリーの額に自分のそれを押しつけた。汗ばんだ肌。まだ荒い吐息。伝わる体温。全てが大事で愛おしい。恋人の生きている証だ。
「本当に出来が悪けりゃ、途中で投げ出すよ。あなたのように苦痛を堪え忍ぶなんてできない」

---

【VVSS-K】

俺は黄金の髪を撫でて、言葉を続ける。
「自由に身体を動かすことができなくてもどかしいのに、こうして訓練も続けてくれている」
ジェフリーはくすっと笑った。
「おまえと一緒にいられるという人参が目の前にぶらさがっているものでね」

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【VVSS-K】

「リハビリをしなくなっても、一緒にいる。ずっと一緒だ」
前提条件など必要ない。ただ共にありたいだけなのだという気持ちが伝わったのだろう。ジェフリーは顔を上げ、俺を見つめた。
「幼稚な対抗意識は捨てることにする。無理をしてもロクなことはないからな」

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【VVSS-K】

俺はにっこりする。
「良かった」
「でも、特別な『ふっきん』は続けるとしよう」
ジェフリーは俺の髪を撫でて悪戯っぽく瞳を輝かせた。
「飽きっぽい俺だが、これだけは止められそうにない」
「判った」

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【VVSS-K】

当初の目論みは成功。でも、効果がありすぎたようだ。
とはいえ、俺も悪い気はしなかった。
少しも衰えていないどころか、ますます巧みになったようにも思えるキスを堪能できるんだから。

VVSS 夏の夜の夢 第一夜（プロローグ）(2015-06-22)

Posted on @matsuokanatsuki on June 22, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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(posted on June 20, 2015)
こんばんは、松岡なつきです。
ご無沙汰してしまい、申しわけありません。
６月２７日に『FLESH＆BLOOD２４巻』が発売されます。
それを記念してVVSSをします、と予告しに参りましたら、ちょうどフォロワーさんが２０００人になっていることに気づきました。ありがとうございます！

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ならばVVSSもちょっとメモリアルっぽくしようとふいに思いたちまして、皆様のお力をお貸し頂きたく、お願い申し上げます。

以前にもやったことがあるのですが、少し改良バージョン。

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皆様の前に三つの袋があります。

一つ目には１～１２までの数字
二つ目には１～６までの数字m
三つ目にも１～６までの数字

各袋に手を入れて取りだした数字は何番でしたか？
インスピレーションでお答えくださいまし

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そして最後の質問、お返事くださった最初の５人の方で決めさせていただきます。

右から行きますか？
左から？

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(all below posted on June 22, 2015)

『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第一夜（プロローグ）★★★

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【VVSS-K】

最高の夏休みを過ごそうとプリマスにやってきた俺達は、ホテルに荷物を置き、まだ沈まない夕日を見にホーの丘へ向かった。

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【VVSS-K】

「ランズエンドって何にもなかったけど、風が気持ち良かったな」
「そうだね。暮らせるかって聞かれたらちょっと考えちゃうけど」
「うん、長閑すぎる。スーパーとか、どこにあるのって感じだし」
気の置けない親友との旅行は本当に楽しい。

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【VVSS-K】

俺達は興味の対象も似ているから、行く先で揉めたこともない。
というか、手を繋いで幼稚園に通っていた頃から、ケンカをしたことなんて数えるほどだ。 それも大抵は俺のわがままが原因だったんだけどね。
そっぽを向きながら別れても、次の日にはもうそんなことは忘れてる

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【VVSS-K】

そんな幼馴染みと出会えたことを感謝してるんだ。本人には面と向かって言えないけど。
「さすがに暗くなってきたね」
夕日が沈んでからも、俺達はベンチに座ったまま、コーラを飲みながら喋っていた。

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【VVSS-K】

「日本と大きく違うところだよね。こっちだと午後の九時近くても、まだ薄暮が続いているような感じだ」
「昼が長くて、得した感じ？」
「どうかな。観光施設とかは夕方でしまっちゃうから、数多く回れるってわけでもないよね。今みたいにのんびり散歩をするにはいいけど」

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【VVSS-K】

俺は思いっきり伸びをした。浜風が気持ちいい。
「そういえば、アルマダの戦いについての本を何冊か読んできたけど、戦いの日付が今とは違うんだよね」
「ああ、ユリウス暦だろ。当時のイングランドはカトリックと敵対していたから、グレゴリウス暦は使ってなかったんだよな」

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【VVSS-K】

うん。で、ふと計算してみたんだけど、今日はユリウス暦の夏至なんだ」
「へえ！ だったら、サー・フランシス・ドレイク達は、今頃火を焚いて
ダンスとかしてるのかな」
途中で見てきたいかめしい石像の男が陽気に踊っている姿を想像して、俺達は吹き出した。

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【VVSS-K】

「ねえ、夏至になる瞬間っていつだと思う？」
「わかんない」
俺の幼馴染みは疑問を疑問のままにしておかない。いつかということも、当然調べてあった。
「今年は午前一時三十八分なんだって」

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【VVSS-K】

「なら昔、グリニッジ天文台へ行ったとき、標準時を示す線を飛び越えたみたいに、その時間まで起きていて、夏至の訪れを祝おうか」
「いいね」
「ついでにビールでも飲んじゃう？」
「売ってくれないだろうね。日本人は童顔すぎる。身分証明書を見せろと言われるのがオチだよ」

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【VVSS-K】

「つまんねーの」
本当にビールが飲みたかったわけじゃない。親や学校から離れて、自由を満喫したかっただけなんだ。すると、
「でも、旅の始まりと成功を祈って乾杯、っていうのは悪くないよね」
幼馴染みは悪戯っぽく笑って言った。

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【VVSS-K】

「うちから持ってきたノンアルコールビールなら、僕のバックパックに入っているんだけど」
俺は親友に抱きついた。判ってる！ 本当に判ってるぜ！
「どこかで夕食を取ったら、寄り道せずにホテルに戻ろう」
俺は大きく頷いた。

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【VVSS-K】

「今夜は飲み明かそうぜ！ ハッピー・サマー・ソルスティス！」

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改めましてこんばんは、松岡なつきです。

皆様のご協力を得て、『FLESH&BLOOD２４巻』の発売記念イベントを開幕することができました。
名付けて『夏の夜の夢』VVSSです。
初日の今日はアンケートの結果とは別の二人組に物語の幕を上げてもらいました。

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明日からは皆様のインスピレーションが結びつけたペアによる物語をお届けします。

ちなみに一の袋にはキャラクターの名を書いた紙を入れ、私がランダムに引き、後ろに番号をつけました。
二の袋も同様で、ここでは『どこで』という場所の指定をします。

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三の袋は『何をした』という主な行動の指定です。

それぞれ皆様が票を入れて下さった数の最も多い順に並べ、同票だった場合は右側を優先して、ペアがどこで何をするか、を決定させて頂きました。

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どんなペアかはそのときまでのお楽しみとさせていただきますが、明日は

あの人とあの人が『王宮で、抱き締める』

になりました。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

VVSS 夏の夜の夢 第二夜 N&R (2015-06-23)

Posted on @matsuokanatsuki on June 23, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, one correction to add a missing line back in.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第二夜 N&R ★★★

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【VVSS-N&R】

じゃあね、午後のお勤めに行ってくる、と言い残して、赤毛の少年は女王の座所へ向かっていった。

俺は咳払いをして、振り返る。
「水夫長」
「へえ」

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【VVSS-N&R】

フレンチ・ワインを飲みながら、こちらを眺めていた男を呼び寄せた俺は確認を取った。
「しらふじゃ到底できんと言うから、わざわざ酒を手に入れてやったんだ。飲む方ばかりにかまけて、覚えることができなかったなどとほざいたら、今すぐテムズ河の泥底に沈めてやるからな」

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【VVSS-N&R】

がっしりとした体つきの男は顔を顰めながら、濁声を上げた。
「勘弁してくだせえ、メイト。水夫が塩水以外で溺れたら、末代までの恥ってもんで」
「ふん、次代も作れるかどうか怪しいくせに」
「ひでえ」

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【VVSS-N&R】

俺はここが芝生の上だということも忘れて足を踏みならした。甲板ならさぞや大きな音が響いただろうに。
「ごちゃごちゃ言ってないで返事は？」
「アイ。俺ァ、覚えだけはいいんで」

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【VVSS-N&R】

「では、始めるぞ」
俺は数歩下がると、決まり悪げに立っている男に一礼した。
「ちょ、ちょっと待ってくだせえ」
「なんだ？」
「俺が女役なんで？」
「当たり前だろうが！」
俺は苛立ち混じりの溜息をついた。
「女王陛下のご命令については話したな？」

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【VVSS-N&R】

「ロシア大使を楽しませるために、赤毛の坊主が女装して女官に混ざり、誰が偽物か当てさせるんでしょ？で、ついでにおかしらとメイトも女官達と踊る貴族に混じって、誰が海賊かを当てさせるとか……まったく、誰がこんな馬鹿げたことを女王様の耳に吹き込んだんだか」

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【VVSS-N&R】

「口を慎め。発案者は女王陛下だそうだ」
「そいつは……」
水夫長は言葉を失った。俺も同感だ。国家を率いる尊き御方にしては、いささか軽薄な思いつきと言わざるを得ない。しかし、

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【VVSS-N&R】

「文句を言っている場合ではない。王命なれば、我々も最善を尽くすまでだ」
「へえ、あっさり見破られちゃ、俺達の坊主が陛下の御不興を買っちまうかもしれねえし」
「おまえの言う通りだ。さあ、始めるぞ」
俺はくい、と顎を引き、もう一度丁寧に礼を取る。

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【VVSS-N&R】

いかつい水夫長はぎゅっと目を瞑ると、先程まで赤毛の少年がしていたように、ちょこんと膝を折った。
「……っ」
いけない、いけないと思うのに、その瞬間、俺は吹き出していた。
「だから、嫌だったんすよ！」

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【VVSS-N&R】

「ま、待て！」
水夫長がくるりと背を向けて、どこかへ逃げだそうとするのを、俺は慌てて止めた。
「悪かった。俺も覚悟が足りなかったようだ」
「覚悟を決めなきゃならねえほどのみっともなさってわけですかい？」

---

【VVSS-N&R】

「あまりにもあの子の真似が上手すぎるんだ。おまえの任務は『女性用の振り付けを踊る』ことであって、女っぽく振る舞うことではない」
水夫長はあからさまに肩の力を抜いた。
「だったら、先にそう仰ってくれねえと」

---

【VVSS-N&R】

「おまえが好意で手を貸してくれていることは判っている。この練習が終わったら、またワインを買ってやろう」
うまい酒に目がない男は、それを聞いて相好を崩した。
「へへ、メイトにしちゃ、大盤振る舞いっすね」
「俺の気が変わらぬよう、おまえも身を入れろ」

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【VVSS-N&R】

物覚えがいい、という言葉に嘘はなく、水夫長は正確に振り付けを覚えていた。それどころか、つい足下を見がちな俺に注意までしてくる。生意気な奴め。
「下を見んな、相手を見ろって坊主にも言われてたでしょ」

---

【VVSS-N&R】

「む……判ってはいるのだが……」
「もしかして、照れてるんですかい？」
俺は足を止めると、じっと水夫長の顔を見た。
「俺にそうする理由が？」
「ねえですよね、はい」
それでもまだ見つめ続けていると、水夫長は目を泳がせ、咳払いをした。

---

【VVSS-N&R】

「これ以上は耐えられねえ。俺が悪うござんした」
俺は頷いた。
「ずっと見られているというのも気詰まりなものだ。だから、適当に目を逸らそうと思うのだが、そうするとつい足取りが気になる」
「メイトの場合、いい男すぎて気恥ずかしくなるって感じっすよ」

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【VVSS-N&R】

「ふん、あからさまな阿りを」
「ホントですって。お顔の綺麗さときたら、おかしらにも負けねえ。さっき坊主もそう言ってたでしょ」
「あれは俺を励まそうと思ってのことだ。あの子は優しいからな」
すると水夫長は先程の俺に負けないぐらい、深い溜息をついた。

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【VVSS-N&R】

「自覚がないってのも面倒だな……」
水夫長はぶつぶつ言っていたが、気を取り直したようだ。
「メイトの足取りは正確そのものでさ。いちいち確かめる必要なんざ、ありやせん。もっと自信をお持ちになって」
「そうか？」

---

【VVSS-N&R】

水夫長は大きく頷く。信用できる男だから、俺もそれを見て心から安心することができた。
「よし、だったら組舞踏はこれぐらいにして、ヴォルタの練習に行くぞ。こちらも覚えているな？」
「バッチリで」
俺はふと思いついた。

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【VVSS-N&R】

「いや、待て。踊り始める前に確かめておこう。ターンのときに、おまえを持ち上げられるかどうか」
水夫長は首を傾げた。
「いやー、そいつは止しておいた方が」
「なぜだ？」
「いくらなんでも重すぎるでしょ。本番を前に腰でも悪くしちゃいけねえし」

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【VVSS-N&R】

こいつは俺をどれほど柔な男だと思っているのだろう。
「馬鹿にするな、貴様」
「してませんよ。別に振りを確かめるなら、その真似をするだけでもいいじゃねえすか」
「いや、本番に向けての勘を養っておくのも必要だ」

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【VVSS-N&R】

「さあ、飛び込んでこい！ 羽のごとく軽やかに持ち上げてやる！」
どんな勘だと自分でも思うが、意地になった俺は大きく両腕を広げた。
「やれやれ……後悔しても知りやせんぜ」
呆れたように首を振った水夫長は、覚悟を決めて小走りに近づいてくる。

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【VVSS-N&R】

そして、気合いと共に俺の前で飛び上がった。
「はあっ！」
「ぐ……っ！」
拍子を合わせて大きな図体を持ち上げたものの、想像以上の重みに手足が震える。
「メイト！ 見事だ！ もう判ったから、下ろしてくだせえ！」

---

【VVSS-N&R】

俺を見下ろしながら、水夫長が焦って言う。
「なんの……まだまだ」
俺はふっと唇の端を持ち上げた。
「どんだけ重いものを持ち上げるかの競争じゃねえんですぜ！」
俺はハッとする。そうだった。俺は水夫長を地面に下ろそうとする。

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【VVSS-N&R】

(missed in original post; see final tweet below) [だが、そのとき、庭を通りかかった女官達がこちらを見て嬌声を上げた。]
「まあ、凄い！ 力持ちねえ！」
「あの二人、何をなさっているの？」
ふいの声にぎょっとしたルーファスが均衡を崩し、それに耐えかねた俺の腕から力が抜ける。「うわあ……っ」
「く……」
次の瞬間、俺は地面に横たわり、水夫長も俺にのしかかる体勢で倒れていた。

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【VVSS-N&R】

「きゃーっ」
さらに高まる歓声を、年長の女官がたしなめる。
「行きますよ。陛下は遅刻をお許しになりません」
不満の声と共に女官達は去っていく。
「見られた……べっぴんさんに」
俺の上にのしかかったまま、水夫長がぼやく。

---

【VVSS-N&R】

他の兄弟に比べてお堅いが、彼とて色恋に興味がつきない年頃だ。美女達の前でみっともない姿はさらしたくなかったに違いない。
「すまない」
俺はぽんぽんと水夫長の背中を宥めるように叩いた。
「俺が意地を張ったせいだ。わびにワインではなく、ブランデーを……」

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【VVSS-N&R】

「俺も踊るんなら、べっぴんさんと踊りたい！」
俺の上で身を揉む水夫長が哀れでもあり、重くもあった。
「判った。おまえも夜会に連れて行く。『本物の海賊は誰だ』という判定のあとで、これぞ海賊だ、というおまえをロシア大使に引き合わせれば、きっと話が弾むだろう」

---

【VVSS-N&R】

水夫長が顔を上げ、俺を見下ろした。
「本当に？」
「アイ。ジェフリーに頼んでやる。俺が嘘をついたことがあったか？」
「ねえっす！」
水夫長は再びがばっと俺に飛びついてきた。

---

【VVSS-N&R】

「ありがとう、メイト！ 宮廷のべっぴんさんと踊れたら、一生の思い出だ！」
「アイ、アイ」
俺はひっしと抱き締めてくる男の背中を抱き返し、苦笑を浮かべた。普段は強面の男だが、可愛いところもある。

---

【VVSS-N&R】

「では、さっさと俺の上から降りろ」
「アイ・サー！ 失礼しやした！」
ばっと身を起こした水夫長が差し出す手を取りながら、俺は立ち上がる。そして、来る夜会のため、さらに練習に励むことにした。
なにしろ、赤毛の坊やに恥はかかせられないからな。

---

こんばんは、松岡なつきです。
甚だしい連投、ごめんなさい。

第二夜はグローリア号の二人、インスピレーションの人気第一位はナイジェル、第二位はルーファスでした＾＾

明日は

あの人とあの人が
『市場で、食べる』です。

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すみません、訂正です。

だが、そのとき、庭を通りかかった女官達がこちらを見て嬌声を上げた。

の一文が抜けていました。

「まあ、凄い！ 力持ちねえ！」
「あの二人、何をなさっているの？」

の前につけてやってください（涙）

VVSS 夏の夜の夢 第三夜 L&R (2015-06-24)

Posted on @matsuokanatsuki on June 24, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第三夜 L&R ★★★

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【VVSS-L&R】

毒殺されかかったせいもあってか、ジパングからやってきた予言者は食欲がない。
保護者のメンドーサ殿、そして従者の少年も心配しているのだが、一向に改善する気配がなかった。そして、
「あんなに好きだった野菜もほとんど食べられないんです」

---

【VVSS-L&R】

その従者、金髪の坊やが業を煮やして相談してきた。
「医療の心得があるあなたならご存じなのでは……身体が弱っているときでも口に運びたくなる食べ物って、どんなものがありますか？」
「そうですねえ」
私としてもこのまま死なれたら困るので、ちょっと考えてみた。

---

【VVSS-L&R】

「スペイン料理はしつこく感じるということなら祖国の味を、と思っても、ジパング人が好むものはよく判らないし……何でも布教しているイエズス会の者によれば、魚ばかりを食べているそうですが」
私はふと思いついた風を装って続けた。

---

【VVSS-L&R】

「タラのスープとか、どうでしょう？ 身を細かく解せば……」
坊やは残念そうに首を振った。
「もう試してみましたが、三口が限界だったみたいです」
「そう……ですか」
もちろん、それは私の耳に届いていた。わざわざ聞いたのは、金髪の坊やを焦らせるためだ

---

【VVSS-L&R】

私でも打つ手なしかと失望しかかったところで新しい案を出せば、間違いなく飛びついてくる。
「リスボンからエスコリアルに旅する間、特に好んで食べていたものは？」
「別に今と代わり映えはしなくて……あ！」
ふと、坊やは目を見開いた。
「パタタが好きでした！」

---

【VVSS-L&R】

「たしか香料諸島から持ち込まれ、ポルトガルで栽培されている野菜ですね。比較的、保存が利くということで、庶民が好んで作っているという話ですが……美味しいんですか？」
「ただ煮るだけでは、あまり感動はありません。ただお腹がいっぱいになる、という感じです」

---

【VVSS-L&R】

感動、という言葉に、私は興味を惹かれた。
「では、調理の仕方が問題ということですね」
「そうなんです！」
金髪の坊やはどこか誇らしげに頷くと、ジパングの予言者が作ったという『パタタのオレンジ煮』について熱弁を振るった。

---

【VVSS-L&R】

「作っている最中も素晴らしい香りがしたものですが、味はさらに見事でした。一口食べた瞬間、舌が蕩けそうになったほどです」
「ほう……」
悪い癖だ。私は美食に目がない。坊やの話を聞いているうちに、この料理を食べたくて仕方なくなってしまった。

---

【VVSS-L&R】

本来の目的を脇にどけてまで。
「陛下の料理人なら、作り方を知っているでしょうか？」
坊やの問いに、私は首を傾げた。フェリペ二世陛下は保守的なことで知られているが、その食卓に並ぶ料理も例外ではない。

---

【VVSS-L&R】

そもそも平民が好んで食べるものを調理せよなどと言われたら、料理人も臍を曲げるだろう。それも奴隷のために。
「材料が手に入れば、私もお手伝いして作れると思うのですが」
私の申し出に、坊やは飛び上がらんばかりに喜んだ。

---

【VVSS-L&R】

「本当ですか？」
「ええ。料理と調剤は通じるところがありますからね。刻んだり、煮たり、絞って汁にしたり。扱うものが野菜と薬草という違いこそあれ」
「お願いします！」
「はい、はい」

---

【VVSS-L&R】

私はせいぜい慈愛を感じさせる笑みを顔に貼り付ける。
「その材料ですが、パタタの他に何が必要ですか？」
金髪の坊やはすらすらと答えた。

---

【VVSS-L&R】

「葡萄酒……あのときは赤いものしかありませんが、本当は白葡萄酒を使うそうです。それから砂糖。これも持ち合わせがなかったので、ビセンテ様が与えたオレンジの砂糖煮を代用しました。あれば『テリトコク』というものを出すために蜂蜜、それからレモンの果汁を少々です」

---

【VVSS-L&R】

「よく覚えていましたね」
「はい。ビセンテ様と海に戻ったあと、機会があれば作ってあげたいと思っていたので」
坊やはそこでしゅんとした。

---

【VVSS-L&R】

「あいつも一緒なら僕が覚える必要もないのでしょうが……陛下のお側に上がったら、もうサンティアゴ号に戻ることはないとビセンテ様が仰っていましたから」
おやおや、と私は目を細める。

---

【VVSS-L&R】

ケンカばかりしていると思っていたのに、本当のところ二人の少年は仲良しさんだったらしい。
まあ、そうでもなければ、どうにかして食欲を取り戻させたいなどと、私の所に相談に来たりはしないだろうけど。
「優しいのですね」

---

【VVSS-L&R】

「べ、別に。ビセンテ様はあいつの後見人ですから、俺も面倒を見てやらなければならないというだけのことです」
「照れないで。君の心は間違いなく相手にも通じますよ」
まだ柔らかい頬を薔薇色に染めている少年を見つめながら、私は計画を大幅に変更することを決めた。

---

【VVSS-L&R】

「驚きもまた食欲を高める効果を上げるもの。こっそり作って、びっくりさせてあげましょう。あの子だけではなく、メンドーサ殿も」
「はい……！」
ぱあっと金髪の坊やは花が咲くような笑顔を見せる。忠実な子犬。本当にこの子は主人が好きで好きでたまらないのだ

---

【VVSS-L&R】

「メンドーサ殿にも秘密にするなら、王宮や修道院内の調理場は使わない方がいいか……ふむ、市場に買い物をしがてら、どこぞの宿に小銭を握らせて場所を貸してもらいますか」
「面白そうですね」
「そうと決まれば、時間が惜しい。今から参りましょう」

---

【VVSS-L&R】

私達は早速行動に移した。
「市街はこのような感じなのですね」
王宮に詰めっきりになっていた金髪の坊やは、商人が賑やかに呼び込みをかける市場の様子を物珍しそうに眺めている。

---

【VVSS-L&R】

純粋な興味のみをたたえる澄んだ瞳が妙に気に障って、私は聞いた。
「市場で最も高価な品物が何か、君は知っていますか？」
坊やは首を振る。
「判りません」
「奴隷ですよ」
「えっ」
衝撃を受けた少年に、私は唇の端を軽く上げてみせた。

---

【VVSS-L&R】

「あの子はメンドーサ殿に拾われて、本当に幸運でしたね。市場に引き立てられ、奴隷商人に裸に向かれたり、身体のあちこちを調べられたりせずに済んだのですから。その上、陛下に献上され、王家の奴隷になれた。その身分に生まれた者としては最高の栄誉です」

---

【VVSS-L&R】

「栄誉……」
坊やはぽつりと呟いた。
「当人はきっとそうは思わないでしょうけど……」
「ええ、なりたくてなる者はおりません。あの子も奴隷の母親から生まれたゆえ、その身分を宿命づけられました。そう思うと哀れですね」

---

【VVSS-L&R】

坊やは少し鋭さを増した瞳で私を見つめた。
「僕があいつの立場だったら、同情されるなんてごめんです。哀れまれるというのは、そもそも下に見られるということ。誇りが軋みます」
君ならばそうだろうね、という言葉を私は飲み込んだ。

---

【VVSS-L&R】

「僕もあいつのことを奴隷だと意識することはありません」
「ならば、どう思っているのですか？ お友達？」
金髪の坊やは言葉を探した。
「友人というには仲が悪いし……敢えて言うなら、『ビセンテ様が拾ってきた奴』です。かつての僕と同じく」

---

【VVSS-L&R】

坊やは市場を巡りながら、ビセンテとの出会いを語った。どれだけ主従の絆が深いのかを。
「本当にお優しいのはビセンテ様です。僕ではありません」
私は頷きながら、当初の計画を思い返した。

---

【VVSS-L&R】

適当な理由をつけて、この金髪の坊やを王宮の外におびき出し、誘拐する。
そして、その命と引き替えに、ビセンテ・デ・メンドーサを私の意のままに動く駒にする、という計画を。
「素敵なお話を聞かせてくれて、ありがとう」
私は坊やに微笑みかけた。心の底から。

---

【VVSS-L&R】

「君達の心はしっかりと結びついているのですね。船上にある太い綱みたいに」
レオは鼻を鳴らした。
「ビセンテ様と僕はそうですが、あいつは図々しく割り込んできただけです。でも、長く一緒にいるとそれなりに情も湧いてきたから、そのままにしてやることにしました」

---

【VVSS-L&R】

素直に態度に表せなくても、坊やの好意は隠せない。
私は心の中で舌なめずりをした。

美味しい。

パタタのオレンジ煮よりもこちらの方が、私の舌に合うのは間違いない。

---

【VVSS-L&R】

彼らにはこのまま情を育み続けてもらおう。そして、どんな剣でも断ち切れないほど固い絆が結ばれた時点で、私が跡形もなく呑み込んでやるのだ。きっと素晴らしい後味がするだろう。怒りと涙のスパイスが利いた後味が。

---

【VVSS-L&R】

「これで全ての材料が揃いましたね」
坊やが振り返るのに、私は大きく頷いた。
「宿屋に参りましょう。あとは私の味付けにかかっていますね」
金髪の坊やは微笑んだ。
「きっと美味しくできますよ」

---

【VVSS-L&R】

「だといいのですが」
言いながら、私は心の中でもう一度、舌を閃かせた。
ああ、そうするとも。
必ずやそうする。
ああ、無垢な魂を喰らう瞬間が、今から待ち遠しくてたまらない。

---

こんばんは、松岡なつきです。
はなはだしい連投をお許し下さい。

第三夜はレオとラウルでした。萌え的にはどうか、という（笑）コンビでしたが、私は楽しく書かせていただきました。皆様にも楽しんで頂ければ幸いです。

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さて、明日は

あの人とあの人が
『船上で、見る』
です。

おつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

VVSS 夏の夜の夢 第四夜 G&A (2015-06-25)

Posted on @matsuokanatsuki on June 25, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第四夜 G&A ★★★

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【VVSS-G&A】

ミゲル・カサージャ船長率いるスペイン商船『ラ・ステラ・マリス号』を拿捕したのは、テネリフェ島の近くだった。
「嵐で僚船とはぐれてしまい、島に設けられているスペイン軍の要塞に身を寄せていたのです」

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【VVSS-G&A】

襲ってきたのが『かのドレイク』の一味と知ると、カサージャはほとんど抵抗らしい抵抗もせず、降伏した。まあ、懸命なことだ。そして自らと乗組員の命と引き替えに、俺が求める情報を素直に提供することも承知した。

---

【VVSS-G&A】

「では、さっさと仕事を済ませましょう。この船に積まれている主な品物は？」
だが、ミゲルが答えようとしたそのとき、一足先に船倉を調べていたナイジェルが、一人の男を伴って戻ってきた。それも身分卑しからぬ男を。
「こいつが積み荷の物陰に隠れていた」

---

【VVSS-G&A】

どん、と肩を突き飛ばされた男は僅かによろめいた後、足を踏ん張って背筋を伸ばした。
「乱暴だな。無抵抗の者に」
男はカサージャ船長と同じぐらい訛りの強いイングランド語で言った。
ほう、と俺は瞬きをする。

---

【VVSS-G&A】

海賊を前にして生きた心地もないカサージャと違い、その男は度胸が据わっていた。その上、
「見事な仕立てだな」
金糸をふんだんに使ったダブレットとホーズを身につけている。襞襟も雪のように真っ白で、美しい折り目がつけられていた。それが意味するところは一つだ。

---

【VVSS-G&A】

「カサージャ船長は雇われか……あんたが船主か？」
裕福さを体現している男はにっこりした。
「商人に見えるかい？」
「いや」
ジェフリーは苦笑した。そうだ。海の上とはいえ、ここはスペインの縄張りだった。

---

【VVSS-G&A】

「貴族だな」
「端くれだがね」
男は優雅に腕を閃かせ、腰を折る宮廷式の挨拶をしてみせた。
「私の存在を隠していたからといって、船長を虐めないでくれたまえ。彼は役目に忠実な男なのだ。客の身を案じ、自らが矢面に立ってくれた」
「客？」

---

【VVSS-G&A】

「気晴らしにテネリフェにいる親戚を訪ねていたんだが、あまりの長閑さに飽き飽きして、予定を切り上げてカディスへ戻るところだった。定期便よりもラ・ステラ・マリス号の方が出港が早いと聞いて、無理を言って乗せてもらったんだよ」
「定期便を待ってりゃ、良かったな」

---

【VVSS-G&A】

「確かに。私の日常には刺激が足りないと思っていたが、これは少々強すぎる刺激だと言わざるを得ない」
「は……」
ふざけた男だ。今の状況に困惑しているようだが、少しも恐れていない。テネリフェの親戚というのは、おそらく要塞に所属している軍人だろう。

---

【VVSS-G&A】

そして、こいつも剣に生きる騎士というわけだ。しかも、かなり場慣れしている。
「あんたの名は？」
まず自分が名乗った後で、俺は聞いた。
「ホセ・マルティネスだ。セニョールもドンもつけなくていいよ。何しろ海賊船の上だからね。ざっくばらんに行こう」

---

【VVSS-G&A】

「気を遣ってくださってどうも」
「今後、我々がどう扱われるのか、聞いても良いかな？」
「積み荷と船をいただいたら、全員カディス沖で解放するつもりだったが……」
「が？」
「あんたは身代金が取れそうだ」

---

【VVSS-G&A】

ホセと名乗った男は溜息をつく。
「そんな話になるのではと思っていたよ」
「請求先はどこにする？ カディスに帰るってことは、そこに家族がいるのか？」

---

【VVSS-G&A】

「いや、私の家はずっと北の方なんだ。カディスにも親戚はいるが、疎遠だし。今ならテネリフェが近いから、そっちに報せを出してくれ。今朝、私を見送ってくれた従兄が用立ててくれるはずだ」
いやに素直だった。何かが俺の勘に障る。

---

【VVSS-G&A】

「止めておこう。テネリフェには軍艦がうようよしている。あんたの従兄がお偉いさんだったら、そいつらに出動がかかるかもしれん」
男はにっこりした。
「先程から綺麗な顔立ちに感心していたんだが、きびきび動く頭もついているんだな」

---

【VVSS-G&A】

「お褒めにあずかり、光栄至極」
予感は当たったようだ。やはり、一介の騎士ではない。俺はわざとらしく礼をすると、背後から男を睨みつけているナイジェルに言った。
「実家の場所を聞いたら、カサージャ船長ともども船倉にぶちこんでおけ」
「アイ」

---

【VVSS-G&A】

俺は今までのやりとりをハラハラしつつ見守っていた船長に向き直った。
「さて、話を元に戻そう。主な積み荷は？ 早く答えた方がいいぞ。こちらの騎士殿同様、身代金を要求されたくなけりゃな」
カサージャ船長はがっくりと肩を落とし、消え入るような声で呟いた。

---

【VVSS-G&A】

「コチニールです……」
何という幸運……！ 俺の胸に喜びが湧き上がった。その赤い染料は銀や胡椒に匹敵する贅沢品だからだ。
「気が変わった」
俺はナイジェルに言った。
「貴重なお宝を運んできてくれた礼に、俺のキャビンで一杯さしあげよう」

---

【VVSS-G&A】

ナイジェルは不満そうだった。
「そんな必要があるのか？」
「せめてもの慰めだ。俺が彼らの立場なら、飲まなきゃやっていられない」
騎士が僅かに首を傾げる。
「私はワインにはうるさくてね。不味いものは口にしたくない」

---

【VVSS-G&A】

ますます不敵な男だ。自分の立場が判っていないのだろうか。
「文句など、言わせるか。ボルドーの一級品だぞ」
「やれやれ、イングランド人は昔も今も彼の地の葡萄酒に惚れ続けているらしい。スペインにだって、素晴らしい酒があるのに」
「例えば？」
「リオハとか」

---

【VVSS-G&A】

「どこだ、そりゃ？」
騎士は悲しげな顔をしてみせた。
「本当に美味しいんだ……だが、世の人は実よりも名を取るらしいね」
「名ばかりが先行するものもあるが、ボルドーは実もあるぞ。それに……」
「ああ、君の言う通りだ」

---

【VVSS-G&A】

騎士はひらりと手首を返し、ジェフリーの言葉を遮った。
優雅だが威圧的なその仕草は、彼の身分がかなり高いことを裏付けている。会話をするのも当人の気分次第というわけだ。
「では、哀しみを忘れるために一杯いただこうか」

---

【VVSS-G&A】

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

男の正体が判明したのは翌朝のことだった。
我々はテネリフェ要塞に所属する軍艦の追撃を喰らったのだ。

---

後に聞いた話によると、前日ラ・ステラ・マリス号が掠奪されていることに気づいた別のスペイン商船が、お節介なことにテネリフェ要塞にご注進に及んだからだという。
「どうする？ サー・フランシスに応援を頼もうにも、その時間が……」
ナイジェルの苦渋に満ちた声を聞きつつ、俺は心を決めた

---

【VVSS-G&A】

決戦の場はここではない。今は逃げるのが肝要だ。
生きていさえすれば、また恥を雪ぐ機会は訪れる。
「ホセ・マルティネスを呼べ」
ややして、ナイジェルの後について現れた男は、俺の顔を見て微笑んだ。
「状況が変わったようだね」

---

【VVSS-G&A】

回り道をしている暇はない。俺はずばりと切り込んだ。
「こちらを追跡している軍艦に止まるよう、手紙を書いてくれ。そうしたら、あんたを含めたラ・ステラ・マリス号の全員をボートに乗せ、解放する」
騎士はまたもや僅かに首を傾げた。
「書かなかったらどうなる？」

---

【VVSS-G&A】
ナイジェルが俺に先んじて言った。
「今すぐ海に放り込んで、鱶の餌にしてやる」
俺に視線を移した騎士に、俺は大きく頷いてみせた。
「さすがは海賊。怖いことを言うね」
とは言うものの、騎士が少しもそんな風には思っていないのは明らかだ。

---

【VVSS-G&A】

「いいよ。書こう」
だが、これはゴネられるかとジェフリーが危惧し始めたとき、騎士はあっさり承諾した。
「イングランドとはまた戦う機会もあるだろうしね」
騎士は俺の視線を受け止めて、勝ち気な笑みを閃かせた。

---

【VVSS-G&A】

「それにどうせ戦うなら手下ではなく、ドレイクと手合わせをしてみたい」
「言ってくれるぜ」
憎らしい男だ。だが、口先だけではないことは、何となく判った。ぴりぴりと肌に伝わってくる雰囲気があるのだ。

---

【VVSS-G&A】

「欲張るな、海賊」
柔らかな声のまま、騎士は言い放った。
「コチニールは手に入るんだ。それで満足しろ」
ここで殺しておくべき男だと、俺は思った。
だが、殺せば、スペインの艦隊が黙ってはいない。
ゆえに見逃すしかないのだろう。

---

【VVSS-G&A】

「では、ごきげんよう」
提供したボートに降り立った騎士は、甲板から見下ろしている俺に向かって手にした帽子を掲げると、ひらひらと振って見せた。
どこまでも人を小馬鹿にした男だ。

---

【VVSS-G&A】

「あんたの名前は？」
俺の問いに、男はわざとらしく目を見開いてみせる。
「もう忘れたのか？」
「本当の名だ」
偽名だということは判っていた。

---

【VVSS-G&A】

身代金を取られる可能性を考え、本当の身分を隠しているだろうと踏んでいた俺だが、それは正しかったようだ。
「どうせ高位貴族なんだろ？」
「いや、いや、単なる騎士に過ぎないよ。今はね」

---

【VVSS-G&A】

カサージャ船長と水夫達が必死に櫂を漕いだおかげで、ボートはみるみるうちにグローリア号から離れていく。
もう手出しできないと見て取ったのだろう。
騎士は帽子を胸に当てて、再び宮廷式のお辞儀をした。ボートの上だというのに、少しも均衡を崩さずに。

---

【VVSS-G&A】

「君と再び巡り会うような気がする。だから、ちゃんと名乗っておこう。私はリオハの騎士にして前ミラノ防衛隊長……」
ふいに高まった波の音がその声をかき消す。
「リオハの騎士、か」

---

【VVSS-G&A】

結局、彼は名乗らなかった。
だが、構わない。どうせ、また会えるだろう。
そう、スペインの騎士だけではなかった。
この俺もまた、再会の予感をひしひしと感じていたから。

---

今夜はジェフリーとアロンソのコンビ。船の上で見る……会う。でも、どこで会わせよう、と本当に悩みました（苦笑）。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

---

さて明日は

あの人とあの人が
『貴人の部屋で、味わう』
です。

おつきあい頂ければ幸いです。
なお本日は残念ながらメッセージにお返事ができません。どうかお許し下さい。

VVSS 夏の夜の夢 第五夜 V&K（C) (2015-06-26)

Posted on @matsuokanatsuki on June 26, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第五夜 V&K（C) ★★★

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【VVSS-V&K】

耳にしたのは恐ろしい評判だけだった。
『南の悪魔』ことフェリペ二世の配下らしく、血も涙もない殺人鬼であるとか。
正体を隠すためなら平気で味方をも裏切るだとか。

---

【VVSS-V&K】

俺もなるほどそんな男でないと、同じぐらい冷酷無比な秘書長官殿が張り巡らせた捜索の網を潜り抜けることはできないんだろうな、と思っていた。
ところが、だ。

---

【VVSS-V&K】

その評判の男、イングランドでは嫉妬深さの象徴、またここスペインでは魔物のものであるとされる緑の瞳を持つスペインの騎士は、可愛がっている少年がちょっと機嫌を損ねただけでしょぼんとしてしまうような他愛のない奴だった。
いやー、噂って当てにならないな。

---

【VVSS-V&K】
まあ、火のない所に煙は立たない場合もあるけど。
秘書長官殿はかつての雇い主だし、あんまり悪いことは言いたくないが、俺以外はロクでもない部下しか抱えていなかったんじゃないか、と思いたくもなる。
あるいは緑の男がよほどの幸運児であるか、だ。

---

【VVSS-V&K】

しかし、稀代の予言者である赤毛の坊やと最初に出会っていたにもかかわらず、その場では連れ帰ることができなかったことや、坊やの心がその後出会った私掠船乗りにまんまと奪われてしまったことを考えると、さほど運にも恵まれていないような気もする。

---

【VVSS-V&K】

「赤毛の坊や、こちらにおいで。一緒にお菓子を食べましょう。コンフェイトと言うのよ」
「わあ！ ありがとう、おくさま」

---

【VVSS-V&K】

目下、その力が敵に渡ることを恐れた秘書長官殿が放った刺客に毒を盛られ、命は助かったものの静養を余儀なくされた予言者の坊やは、パストラーナ公の領地で暮らしている。
城の塔に幽閉されているのは公爵の母親にしてイタリアの大公夫人、そして元国王の愛人という女性だ

---

【VVSS-V&K】

国王はまだ未練があるのか、体調を整えながら、元愛人の無聊を慰めるよう、坊やに命じたらしい。
不自由な身の上に飽き飽きした彼らは意気投合した風で、朝からそんな風に菓子を食べたり、ヴァージナルを弾いたり、宮廷舞踊を楽しんだりする毎日を送っている。

---

【VVSS-V&K】

だが、その実、大公夫人は『貸し出されているだけ』の坊やを国王から奪い、自分が所属する反体制的な組織のものにするつもりだったし、坊やも抜け目なく逃亡の機会を窺っていた。
どっちも素人にしては、大した演技力だ。

---

【VVSS-V&K】

そして、この俺が僧衣に身を包んでこの城に潜入しているのも、愛しの君の願いを容れて坊やの逃亡を助けるためだった。まったく、俺は劇作家であって、役者じゃないのにな。

---

【VVSS-V&K】

「そのあたりにしておけ。大公夫人のご好意はありがたいが、ゆうべ菓子の食べ過ぎで虫歯ができたようだとべそをかいていたではないか」
生真面目なのか、気が利かないのか、緑の眼をした男はそんなことを言って、また坊やのご機嫌を損ねる。

---

【VVSS-V&K】

「あれはきのせい。いま、いたくない」
「いまは、だろう」
「いいんだ。これ、ぜったいたべたいんだから！」
ぷい、と坊やにそっぽを向かれた途端、秘書長官をこけにし続けたやり手の男は、がっくりと肩を落とし、悲しげに唇を噛みしめた。

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【VVSS-V&K】

くはああああ、この甘さ！
コンフェイトを食べたわけでもないのに、俺は胸焼けを起こしそうになる。
ガキに手玉に取られるとは情けない。
しかし、そんな男に翻弄された秘書長官はさらに面目がない。
ははっ、いい気味だけどな。

---

【VVSS-V&K】

金を握らせれば何を命令しても構わないと思っている節がある秘書長官には、俺もさんざん苦労をさせられてきた。緑の眼はそうと知らないまま、俺の代わりに意趣返しをしてくれているようなもんだ。

---

【VVSS-V&K】

「固いこと言わないのよ、おいとこさん」
大公夫人が微笑んだ。
「歯が痛くなったら、そちらにおいでの修道士さんに直してもらえばいいのよ」
「は……」
不承不承頷いて、緑の眼は俺を振り返る。
「お任せ下さい」

---

【VVSS-V&K】

俺はわざとらしいまでにフランス訛りを強調したスペイン語で答えた。というのも、俺は南仏モンペリエ大学で医学を修得したのち、布教のために海外を飛び回っていたという修道士を演じているからだ。

---

【VVSS-V&K】

「痛み止めもございますし、いよいよ手の施しようがないとなれば、歯を抜くことも可能です」
緑の眼が見開かれる。
「歯を抜く？」
俺はにっこりした。
「はい、金鋏を口に突っ込んでぐい、ぐい、ぐい、ぽん、と」

---

【VVSS-V&K】

緑の瞳に恐怖の色が過ぎる。
「あの子にそんな苦痛が耐えられると？」
「皆、やっていることですし」
「いや、だめだ。指先に棘が刺さっただけでも大騒ぎをするような子なんだぞ」

---

【VVSS-V&K】

大騒ぎをしているのはあんたじゃないかと内心呆れたものの、俺は理解を示した。
「では、これ以上症状が悪化しないよう、歯磨きを徹底させてください。毎食後、柳の枝を加えさせてごし、ごし、と
「判った。嫌がったら、私が強引にでも磨く」

---

【VVSS-V&K】

「はあ、さようで」
「うむ。せっかく美しい歯並びをしているのだ。どの歯が欠けるのも惜しい」
愛する者のことは深く、そして細部まで心に刻まれるものだ。俺も愛しの君の容貌や所作には詳しいという自負がある。しかし、

---

【VVSS-V&K】

「歯並びねえ……」
「なんです？」
俺の感心したような声に、緑の瞳が眇められる。からかわれたと思ったらしい。
「本当に大事になさっているのだと思ったのですよ」
「あたりまえです」
困惑することも、照れることもなく、男は言った。

---

【VVSS-V&K】

「陛下から後見役を任されているのです。彼の身を守るのは私の義務だ。むろん、仕事だけではなく、面倒を見るのが楽しいということもありますが」
とってつけたような後半の台詞こそ本心だろ。
「やってらんねえな……」
「失礼、何とおっしゃいました？」

---

【VVSS-V&K】

思わずぼやいた俺に、緑の眼は律儀に聞き返してくる。
生真面目。不器用。そして一途。
どう考えても、間諜や潜入任務には向いていない。
だからこそ、秘書長官の裏をかけたのかもしれないな。

---

【VVSS-V&K】

ま、俺は嫌いじゃないよ。
愛する君とどこか通じるところがある。
俺は自分に似たような男は愛せない。
俺には備わっていないものを持っているからこそ、惹かれるんだ。
まあ、いずれ倒さなければいけない男に心を残す気はないけれど。
へへっ、俺も一途になったもんだ

---

【VVSS-V&K】

「大公夫人も勧めていらっしゃいます。あなたもコンフェイトをお召し上がりください」
俺は微笑んで言った。
「一緒に楽しむことができる人にこそ、あの子も心を開こうという気になるのでは？」
緑の瞳がはっとしたように見開かれる。
初心なことだ。

---

【VVSS-V&K】

「そう……そうですね。体調を気遣うばかりでは、あの子も窮屈に感じるばかりかもしれない」
「ええ。一緒にお菓子を食べ、一緒に歯磨きすればいいのです」
見惚れるほどの美貌が、笑顔によってさらに輝く。

ああ、愛しの君もこんな風に俺に笑いかけてくれたら……！

---

【VVSS-V&K】

大公夫人に歩み寄る後ろ姿を見送って、俺は肩を竦めた。
「ごちそうさま」
大公夫人は俺には菓子を勧めてくれなかったが、構うもんか。
気恥ずかしいまでに甘い何かを味わった気がするから。

---

こんばんは、松岡なつきです。

夜遅くにすみません。
いつもより投稿が遅くなってしまいました。

今日はビセンテとキットのコンビ。この二人はパストラーナで出会っていましたね。なので貴人の部屋の主はエボリ大公夫人、ということになりました。楽しんで頂けたら幸いです。

---

さて、もうまもなく訪れる明日ですが、

あの人とあの人が
『花畑で、触る』
です。

またおつきあい頂ければ幸いです。
昨日は温かいメッセージをありがとうございます！
しかし、申しわけありませんが、今夜もまた御返事ができません。
どうか、お許し下さいまし（涙）

VVSS 夏の夜の夢 第六夜 J&M (2015-06-27)

Posted on @matsuokanatsuki on June 27, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第六夜 J&M ★★★

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【VVSS-J&M】

警戒されているのは判っていたし、それが当たり前だ。
全スペイン人の憧れと評される騎士が俺を呼び寄せるたび、彼の腹心は張り詰めた空気を身に纏いつつ、少し離れた場所からこちらを見守っていた。
「やりにくいかい？」

---

【VVSS-J&M】

「やりにくいかい？」
鷹揚そうに見えて、その実あらゆることに目配りをしている騎士は、ちらりと腹心を見やってから俺に微笑みかけた。
「気になるなら、下がらせるが」
「いいえ」
俺は首を振った。見張られることには慣れている。それももっと鬱陶しいやり方で。

---

【VVSS-J&M】

「むしろ、居てもらった方がいい。疑惑や不信は相手に対する不理解から湧き上がるものです。あなたを害する気がないということを、その目と耳で確かめ、理解して頂きたい」
「だそうだ。判ったか？」
部屋の隅から静かないらえが返ってくる。
「承知致しました」

---

【VVSS-J&M】

「それと葡萄酒を出しておやり。水夫達は厳しい配給制限を受けているからね」
「かしこまりました」
イングランド近海の海図に視線を落とした騎士に、俺は言った。
「あなたは飲まれないんですか？」
「その気になればいつでも飲めるからね」

---

【VVSS-J&M】

いつでも、というのは誇張だろう。だが、せっかくの好意だ。ありがたく頂くことにする。
「ここに置くぞ」
部下が運んできた酒を受け取った腹心は、海図の載った机の端に盃を置くと、元の位置に戻ってゆく。そして以前と全く同じ直立不動の姿勢を取った。

---

【VVSS-J&M】

「二人は幼馴染みと伺いましたが……」
「うむ」
「とてもそう思えないほど、彼が堅苦しい態度を取るのは、スペイン人の慣習ですか？」
騎士は困ったように眉を寄せた。
「そうとも言えるし、そうではないとも言える」
「あなたにしては煮え切らない返事ですね」

---

【VVSS-J&M】

「どんな親しくても主筋の者には敬意を払うというのは騎士の心得だ。だが、おまえの生まれた国やイングランドに比べ、我が国ではその度合いがはなはだしい」
騎士はそこで再び幼馴染みの腹心を振り返った。

---

【VVSS-J&M】

「私はもっと親しみを示したいんだが、彼は居心地の悪さを感じるようでね。馴れ馴れしくしろ、と命じることもできないし」
俺を虐げ続けた僧衣の男や、アントウェルペンにある総督府の主を思い浮かべて、俺は苦笑を浮かべる。

---

【VVSS-J&M】

「お話を伺って、長年の誤解を改めることができました。全てのスペイン人が鼻持ちならないほど傲慢で身勝手なわけではないのだ、と」
「良かった」
騎士はにっこりする。

---

【VVSS-J&M】

「君の言う通り、理解を深めるのは大事だな。その上で互いの立場を認め、受け入れることができれば争いを遠ざけることもできる。まあ、言うほど容易いことではないが」
「そうですね」
海図を見下ろして、俺は頷いた。

---

【VVSS-J&M】

「この長い海岸線に攻撃をしかける場合、君だったらまずどの港を攻める？」
「そこに拠点を築く場合と、さらにロンドンまで進軍する場合で違ってきます」
騎士の質問に応じながら、俺は考え続けた。
イングランドとスペインが争いを避ける道はあったのだろうか。

---

【VVSS-J&M】

宗教。領土。商活動。両国を隔てる問題はあまりにも大きく、深かった。
もしかしたら、二つの国の間に横たわる海よりも。

そう、眼には見えない人の心には果ても底もなかったから。

---

【VVSS-J&M】

話し合いを終えてキャビンを出た俺は、隔壁に寄りかかって溜息をつく。
疲れた。
宿敵を倒すためにスペインに協力することを決めたのは俺だが、やはり長く暮らし、親しくつきあった人々がいるイングランドと敵対するのは胸が痛む。

---

【VVSS-J&M】
「もう一杯、飲むか？」
そのとき再びキャビンの扉が開いて、ぶすっとした顔の腹心が現れた。
「気疲れしただろうと、我が主人が仰せだ」
騎士は腹心を評して「行き届いた男だろう」と自慢げに言ったことがあるが、なかなかどうして騎士の心遣いも細やかだ。

---

【VVSS-J&M】

環境劣悪な戦場に生きる武人はなべて猛々しく、些事に拘らぬ生き物だという先入観をも改めさせてくれる。
「ありがたく頂きます」
「こちらに来い」
腹心が導いたのは主人の居室の隣にある、こじんまりとした彼のキャビンだった。

---

【VVSS-J&M】

美しい調度があるわけではなかったが、掃除が行き届いている。
陸者にしては良い心がけだ。
主従の繋がりを示す、仄かなオレンジの香りを聞きながら、俺はさしだされる酒杯を受け取った。

---

【VVSS-J&M】

「香水もいろいろあるのに、なぜオレンジを好まれるんでしょうね」
答えは期待していなかった。俺とは口を利きたくない風だったからだ。しかし、礼儀を重んじる腹心は、ややして言った。
「元気になるからだそうだ。ご自分だけではなく、周りのものも」
「ほう」

---

【VVSS-J&M】

「一番お好きな香りは薔薇だ。しかし、生きた花の香りには到底及ばないゆえ、香水はつけぬと」
「なるほど、王宮に咲く薔薇はさぞや美しく、薫り高いんでしょうね」
すると腹心は鼻を鳴らした。

---

【VVSS-J&M】

「閣下をご存じない者はそう言う。確かに王宮の薔薇は美しいが、閣下が愛する薔薇は故郷の葡萄畑に咲くものだ」
俺は眉を寄せた。
「葡萄園の薔薇？」

---

【VVSS-J&M】

「薔薇は華麗に咲くが、本来とても弱い花だ。ゆえに土壌が荒れたり、虫が発生すると真っ先に枯れる。栽培者はそれを見て、被害が葡萄に及ばぬよう、手当てをするのだ。そのため葡萄畑の各所に薔薇が植えられている」
「存じませんでした」

---

【VVSS-J&M】

「栽培者でもない限り、知る者は少ない。貴族なら尚更だ。しかし、閣下は幼い頃から領地の土にまみれてお育ちだった」
腹心は微笑んだ。
俺にではなく、その脳裏に思い浮かべる人に向けて。

---

【VVSS-J&M】

「我が身を犠牲にして葡萄の健やかさを守る姿が聖母のようだと言われ、深く愛しまれた。厳格な父君からささいなことで不興を買ったときも、まっさきに向かうのは葡萄畑だ。花の香りに包まれていれば、怒りは鎮まる、嫌なことも忘れられると仰って」

---

【VVSS-J&M】

それを知っているのは、おそらく傷ついた主人を迎えに行ったのが、この男だったからだろう。
なるほど幼馴染みというのはいいものだ。
彼らは心の痛みを分かち合い、励まし合って成長する。

---

【VVSS-J&M】

「あなたほど閣下を理解している人間はいない。騎士の心得はさておいて、もっと親しくなりたいというご要望に応じてもいいのでは？ 今の状況では閣下も心強く思われるでしょうに」

---

【VVSS-J&M】

腹心はふと物思いから醒めると、初めて私の存在に気づいたとでもいうように瞬きをした。そして、意外なことに苦笑を浮かべる。どんな種類のものであれ、俺に微笑みかけることなど、金輪際ないだろうと思っていたのに。

---

【VVSS-J&M】

「閣下のお望みなら、どんなものであれ叶えてさしあげたい。しかし、そればかりは別だ」
「なぜです？」
「友人には無理を言えぬもの」
「友人だからこそ本音を語れるということもありますよ」
「だが、命を寄越せとは言えぬだろう？」

---

【VVSS-J&M】

俺は言葉に詰まった。
「軍人にとって上官の命令は絶対だ。部下ならば、上官は死地へ赴けと命令することができる。そう命令できる権利を閣下に持っていて頂きたいのだ。命を捧げることが閣下のお為になるのなら、私は喜んでそうする」

---

【VVSS-J&M】

俺の脳裏に風に揺れる薔薇の花が浮かんだ。
そして、それを見つめる二人の少年の姿も。

「余計なことを言った。聞き流せ」
腹心はいつものような無表情に戻る。
俺は頷き、酒杯を呷った。

---

【VVSS-J&M】

共に花を見つめながらも、少年が抱いた思いはそれぞれだ。
「薔薇の献身を、葡萄は知らない」
ふと呟いた俺に、腹心は首を巡らせた。隔壁の向こうにいる主人を見つめるかのように。
「それぞれに務めがある。豊かに実り、素晴らしい酒を生み出すのが葡萄の役目だ」

---

【VVSS-J&M】

俺はもう一口飲んで、気づく。
知らないわけはない。
騎士が最も愛するのは故郷の薔薇。
オレンジの香りを身に纏っていても、その心は薔薇の香りを懐かしむ。
共に薔薇の咲き乱れる畑で過ごしたときを愛おしむ。
互いの心に触れた瞬間を。

---

【VVSS-J&M】

祖国から遠く離れた海の上でも、決して忘れない。
「美味い酒です」
「だろうとも」
当然だというように頷いた腹心の顔には、誇らしさが浮かんでいる。
全ては覚悟の上なのだ。
主従は互いの立場を深く理解し、受け入れている。

---

【VVSS-J&M】

それにとやかく言う権利は誰にもなかった。
無論、俺にも。

「やれやれ……」
腹心のキャビンを出た俺は、また隔壁に寄りかかって溜息をつく。
今度は疲労感からではない。
困っただけだ。
そう、スペイン人をなべて憎むことができなくなったことに。

---

こんばんは、松岡なつきです。

今夜はヤンとマルティンのコンビでした。本編ではなかなか書けない組み合わせだと思うので、とても楽しかったです。

---

明日はイベントのラストを飾る二人。

あの人とあの人が
『プリマスの屋敷で、聞く』
です。
またおつきあい頂ければ幸いです。

VVSS 夏の夜の夢 第七夜 K&E (2015-06-28)

Posted on @matsuokanatsuki on June 28, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第七夜 K&E ★★★

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【VVSS-K&E】

幼い頃はほぼ母親と二人きりの生活だったから、家の中は静かだった。
まあ、母の友人が来ているときは賑やかだったけれど、俺はさっさと逃げ出して親友と遊んでいたし。

---

【VVSS-K&E】

世の中って音に満ちているんだなって思ったのは、寄宿学校に入ってからだ。
絶え間ない声。
笑い声。
叫び声。
咳払い。
いびき。
机を揺らす音。
ベッドのスプリングが軋む音。
食器が触れあう音。
校庭で響くボールの弾む音。

---

【VVSS-K&E】

慣れてない俺は圧倒され、耳を塞ぎたくなった。
「気になったら僕と喋ればいいよ。そうしたら耳に入ってこなくなるから」
いつだって頼りになる親友は、幸運なことに学友にもなってくれて、戸惑う俺を宥めてくれた。彼の言う通りにすれば、大抵のことは解決する。

---

【VVSS-K&E】

このときもそうだった。
授業のことや談話室で見たテレビのことなんかを話しているうちに、ざわざわと絶え間なく耳に流れ込んできた雑音は気にならなくなった。
団体生活の第一関門を突破できた、というわけだ。

---

【VVSS-K&E】

だからだろうな。
グローリア号に乗ったときも、そんなに音は気にならなかった。
それより船酔いの方が大変だったってこともあるけど。
むしろ船長のキャビンで横たわっている間、俺の慰めになってくれたのは、グローリア号と海が奏でる子守歌だった。

---

【VVSS-K&E】

帆を膨らませ、ときに打つ風の音。
船腹を洗う波の音。
舷側に跳ね返って飛び散るしぶき。
甲板をざあっと洗い流す海水。
仲でも絶え間ない船体の軋みはぎーっと長く続くときもあれば、ぎし、ぎし、とスタッカートを刻むときもあって聞き飽きなかった。

---

【VVSS-K&E】

「おまえさんは箱入り息子っぽいのに、案外早く船乗りのせわしない暮らしぶりに慣れたよな」
俺の自慢の兄弟、優れた檣楼手であり、誰よりも早く敵船の影を見つける水夫にそう言われたとき、ふと俺が思ったのはそんなことだった。

---

【VVSS-K&E】

「俺、寂しがりやだからさ。賑やかな方が嬉しいんだ」
学校生活で慣れていたから、とは言えないので、俺はそうごまかした。
とはいっても、完全な嘘じゃない。
一人でこの世界に送り込まれて、自分が孤独に弱いってことが痛いほどよく判っていたからだ。

---

【VVSS-K&E】

「あなたは一人で檣楼に上がっていることも多いけど、もしかして賑やかなのは得意じゃないの？」
「うんにゃ」
俺にロープの結び方を教えていた檣楼手は、手にした縄を軽く振った。
「兄弟達といるのはいつだって楽しいさ。でも、高いところからの景色も捨てがたくてさ」

---

【VVSS-K&E】

俺は苦笑した。
「俺には理解しがたいけど、でも、好きな人にはたまらないんだろうね」
「おおよ。ぱあーっと目の前が開けて、胸まですかーっとすらぁ」
檣楼手は大きく腕を広げ、深呼吸をした。

---

【VVSS-K&E】

「まるっきり甲板の音が聞こえねえってわけでもねえのよ。波の音にまじって聞こえる兄弟の笑い声なんかを耳にしながら、晴れ渡った海を眺めてると、ああ、おいらは水夫になって正解だった。ここが俺の居場所なんだってしみじみ思えんのさ」

---

【VVSS-K&E】

俺は大きく頷いた。
「判るよ。高い所が嫌いで、いまだに帆も広げられない俺だけど、航海をするのは大好きだ」
「そうか」
檣楼手は微笑んだ。
「アイ。キャプテンに拾ってもらって幸運だったって思ってる」
「俺もだよ、兄弟」

---

【VVSS-K&E】

話しながらも熟練水夫の手はあっという間にロープを操り、大砲の弾を持ち運べるようなネットを作ってしまう。
「こいつをいくつか作っておきゃ、おまえさんみたいな非力でもいっぺんに二個運べるぞ」
「そうだね。でも、あなたみたいに上手くつくれるかな」

---

【VVSS-K&E】

「練習あるのみさ、赤毛の坊や」
完成品を試すがめつしている俺の頭をぐりぐりと撫でて、檣楼手はまた笑みを浮かべた。

---

【VVSS-K&E】

「水夫の一生ってのはそういうもんだ。同じことを繰り返し、繰り返しして、どんなに切羽詰まったときも焦らず作業できるようにする。海は綺麗だが、恐ろしい場所だからな。死にたくなかったら、気を抜いちゃいけねえ」

---

【VVSS-K&E】

軽やかで、さらっとしていて、仲間とふざけるのも大好きだけれど、本当は真面目な檣楼手。
その少しも押しつけがましくないけれど、決して疎かにしてはならない教えを受けられたことは、俺の幸運だった。

---

【VVSS-K&E】

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

「粗忽者め、何かをぶつけてそのままにしたな」
階段の手すりを磨いていた檣楼手は、手すりに残る擦り傷を見て、顔を顰めた。

---

【VVSS-K&E】

ロンドンの牢獄に収監されていた船長が帰還するというので、一時、グローリア号の乗組員は清掃人に職を変えている。
「最高級の木材なのに……」
ぶつぶつ言いながら、けばだった木目を確かめ、どう修繕するべきかを考えている檣楼手に、俺は言った。

---

【VVSS-K&E】

「兄弟達が来てくれて良かったよ。この屋敷はキャプテンと俺だけじゃ、広すぎる」
「おまえさんだけじゃ、掃除も一苦労ってか？」
「うん。深刻な悩みになりそう」
「手に負えなくなったら、若ぇのに声をかけな。食事と酒でも出してやりゃ、大喜びで集まるだろうぜ」

---

【VVSS-K&E】

「本当？」
「アイ。陸にいる間はすることもねえし……って、ちょっと待ってな」
檣楼手はしばらくどこかへ行ったかと思うと、仮漆を携えて戻ってきた。
「船大工も大工の仲間だろ。トーマスに聞いてきた。軽くやすりをかけてケバを取ってから仮漆を塗れってさ」

---

【VVSS-K&E】

「へえ」
いつものように手際よく修復を終えた檣楼手は、すっかり目立たなくなった傷を確かめ、満足そうに頷く。
「おかしらの家だからかな。なんだか、まだ船に乗っているような気がするぜ」
「俺もそうなんだ」
同じ気持ちの人がいると判って、俺は嬉しくなった。

---

【VVSS-K&E】

「キャプテンのことだから、硝子を使ったキラキラした屋敷でも建てたのかなって想像してたけど、実際は違った。木の温もりがあって、船に乗っているときみたいに落ち着けるよね」
「アイ、アイ」
修復したところを注意深く避けて、檣楼手は手すりに掌を滑らせた。

---

【VVSS-K&E】

「温もりかあ……おまえさん、いいことを言うな」
「そ、そう？」
「当たり前だけど、航海中は周りを海にかこまれてるからな。ふと難破したときのことを考えたりして、心細くなることもある」
「あなたでも？」

---

【VVSS-K&E】

「誰でもさ。人ってなあ、普通、陸で暮らす生き物だからよ。でも、水夫ってのは陸だけじゃ、生きられねえ奴らでさ。怖いところだって判っちゃいても、海が恋しくなっちまうのよ」
木材を優しく撫でて、檣楼手は微笑んだ。

---

【VVSS-K&E】

「不安になったとき、水夫は帆柱を触って悪運避けをするんだ。どっしりと動かない陸に生える木に縋って、そこに戻れることを願うわけさ。意識をしたことはなかったが、おまえさんの言葉を聞いてはっとしたよ。そういや、木は温かかったって」

---

【VVSS-K&E】

檣楼手はふと照れたように手すりをぽんと叩いて、腕を引いた。
「ま、お日様を浴びっぱなしに浴びていたからかもしれねえがな」
いつも飄々としていて、怖いもの知らずのように思えた彼にも、やはり心が揺れる瞬間はある。

---

【VVSS-K&E】

それを打ち明けてくれたことが、俺は嬉しかった。
本当に兄弟として受け入れてくれているのだと判って。
誰より愛するキャプテンもそうだけど、俺の前では必要以上に強がって欲しくない。もちろん、俺なんかとは比べものにならないほど強い人たちだってことは判っているけど

---

【VVSS-K&E】

「この二階も檣楼みたいじゃない？」
俺は言った。
「ほら、兄弟の声が少し遠くに聞こえる」
「アイ」
俺達は耳を澄ませた。

---

【VVSS-K&E】

海ではないから波の音はしない。
船体が軋む音も。
その代わりに絶え間なく床を踏みしめる足音がする。
どかどかと大きいのは水夫長。
こつ、こつ、と乾いた音は義足を使っている料理人。
誰かを叱りながら行ったり来たりをしているのは航海長だ。

---

【VVSS-K&E】

開け放した玄関の扉からはひゅうっと爽やかな南風が吹き込む。
甲板の代わりに床を拭いている兄弟達の笑い声。
「ここもあなたの居場所だよ」
俺の言葉に檣楼手はへへっと笑って、俺の頭を撫でた。
「俺のちっちゃな家もおまえさんの居場所だぜ」

---

【VVSS-K&E】

「うん、ありがとう」
肩を並べて、俺は思った。
居場所っていうのは、本当は家屋敷じゃない。
それは自分と大好きな人の心の中にある。

---

【VVSS-K&E】

「そろそろ、おかしらが寂しがる頃だぜ。顔を見せにいってやんな」
檣楼手が言うのに、俺は微笑んだ。
「うん。一人にしておくと拗ねるからね」
「おまえさんと同じで寂しがりやだからな」
「あそこまで酷くないよ」
「どっちもどっちだって」

---

【VVSS-K&E】

歩き出した俺の背後で、再び檣楼手は手すりを磨きだした。
船の上では絶対にしない、口笛を吹きながら。
ここならうっかり水夫長に聞きつけられても、鞭が飛んだりしないもんね。
いずれ海に戻るその日まで、皆が陸での暮らしを楽しめますように。
俺は心からそう祈った。

VVSS 夏の夜の夢 第七夜 エピローグ (2015-06-28)

Posted on @matsuokanatsuki on June 28, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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『FLESH&BLOOD 24巻』発売記念ツイッター企画

★★★ 夏の夜の夢 第七夜 エピローグ ★★★

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【VVSS-K&K】

夜通し話すはずだったのに、気がつけば眠ってしまったらしい。
だいぶ高くなった太陽の光がカーテンの隙間から差し込んできて、僕は目を擦りながら起き上がった。
「海斗、今日も観光に行くなら、そろそろ起きないと」

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「んー……わかった」
返事はしたものの、まだまだ海斗は眠そうだ。それでも、なんとか身を起こし、ぼんやりとした眼で僕を見つめる。
「変な夢みた」
「どんな？」
「なんかいっぱい……いろんな人がでてきて……」
「知ってる人？」
海斗は首を振った。

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「全然知らない人だし、どうも十六世紀の人っぽい」
僕は苦笑した。
「旅行の前にサー・フランシス・ドレイクのことを調べてきたし、ここはプリマスだから、脳がそんな幻を見せたのかもね」
「うん、そうかも……」
海斗は大きな口を開け、あくびをした。

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そして目元に浮かんだ涙を拭い、ふと微笑む。
「俺も海賊だったんだぜ」
「ええ？」
「なんかグローリア号って船に乗ってた」
「凄いリアルな夢だね」
「うん」

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猫のようにのびをしてから、海斗はだいぶ眠気を払った瞳を僕に向けた。
「おまえが一緒にいなかったのが残念だよ」
「そうだね。僕も一緒に航海したかったな」
「でも、海はもの凄く危険だって、仲間の水夫が言ってた。だから、本で楽しむぐらいがいいのかも」

---

「あとは海賊の足跡を辿るぐらいがね」
僕はベッドを軽く整えて立ち上がった。
「さあ、顔を洗って、下の食堂へ行こう。朝食を食べたら、今日はバックランド・アビィに行ってみない？」
「サー・フランシスの屋敷か。いいね」
海斗もベッドから飛び出す。

---

彼が顔を洗っている間、僕はカーテンを開け、少しだけ窓を開いた。
爽やかな南風が吹いてくる。
今日も天気は上々だ。
背後から聞こえる海斗の鼻歌を聴きながら、僕は思った。
きっと今年は最高の夏休みになるに違いない、と。

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こんばんは、松岡なつきです。

ついに七日目、イベントのラストを無事にお届けすることができました！
最後は海斗とユアンのコンビ。
集計を取っている間、ハラハラしていたのですが、実はユアンの番号である１０番はたったの二票しか頂くことができなかったのです。

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「ゼロだったら、なんか可哀想。１～１２までという数が多すぎたからしら」と気を揉んだのですが、なんとか票を入れて頂けてほっとしました。

私はお兄さんぶるユアンが好きなので、このコンビを書くのも楽しかった。皆様にも気に入っていただけたら嬉しいです。

VVSS-G 3 (2016-08-21)

Posted on @matsuokanatsuki on August 21, 2015. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

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【VVSS-G】

夕暮れは寂しさが募るから嫌いだった。
ちゃんと見られるようになったのは親友ができてからだ。肩を並べて見ていると、案外、いや本当に綺麗だってことが判った。

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【VVSS-G】

闇夜はもっと嫌いだ。
月明かりに照らされ、ぼーっと浮かび上がる家具が、自分の方にのしかかってくるような感じがするのも不気味だったが、目をこらしても何も見えないというのは恐ろしさの極みだった。

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【VVSS-G】

狂信的な母と違って、俺はその頃から神様なんて信じちゃいなかったが、夕暮れが迫るたびに願わずにはいられなかった。誰か夜が来るのを止めてくれ、せめて月か星をきらめかせていてくれ、と。

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【VVSS-G】

最悪だったのは闇夜の雨だ。
荒れ果てたあばら屋はそこかしこから雨漏りがする。夏はともかく、冬は死を覚悟せずにはいられなかった。藁を引き寄せ、身体にかけながら、俺は破れた屋根から空を見上げる。

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【VVSS-G】

押し潰そうとするかのように濃い闇に、骨の髄まで凍るような寒さに震え、ただひたすら朝の訪れを待っていた。

人々が恐れる稲妻は、そんな俺にとって救いに他ならない。

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【VVSS-G】

真っ暗な夜空を切り裂き、あたりを紫色に染めてくれる。眩い腕を四方に広げ、恐ろしい闇を払ってくれる。
「雷は罪人をめがけて落ちてくるのよ」
寝たきりの母はそう言って、雷が鳴っている間、ずっと祈り続けていた。

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【VVSS-G】

俺はべつに悪いことをしていなかったから、近くの大木に雷が落ちたときも少しも怖くなかった。むしろ、その訪れを待ち望んでいた俺に、挨拶をしてくれているのだと思っていたほどだ。

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【VVSS-G】

小降りになっていく雨の音、耳をつんざくような雷鳴が次第に遠ざかっていくのを聞きながら、俺はいつになく穏やかな心持ちで眠りにつく。母の代わりに空が歌ってくれた子守歌だった。
船乗りになったとき、嵐に見舞われてもさほど慌てずに済んだのも、たぶんその経験からだろう。

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【VVSS-G】

無論、自然を甘く見るつもりはないが、必要以上に恐れては判断を狂わせることになる。

風雨はともかく、稲妻が光ったら、マストから離れればいいだけのことだ。

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【VVSS-G】

「ぎゃー」
そんなわけで、俺は雷が轟くたび、隣で身を竦ませる赤毛の少年が物珍しくてたまらなかった。
「ち、近い……すっげー地響き」
「地面はないぞ、坊や。震えているのは船体だ」
「う、うん……」
「落雷したとしてもキャビンを直撃することはまずないから安心しろ」

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【VVSS-G】

「キャビン以外に落ちたら、どうなるの？ 例えばマストとか……」
「裂けて、砕けるぐらいならいいが、燃えたりすると厄介だな」
「も、燃える？ こんなに雨が降っているのに？」

---

【VVSS-G】

「濡れているのはマストの表面だ。砕けた衝撃で乾燥した内部に火花が移りでもしたら……」
「したら……？」
「バーン」
「ぎゃあっ」
俺の声に偶然雷鳴が重なって、赤毛の少年はびくっと竦み上がり、俺にしがみついてきた。
「しーっ、大丈夫だ」

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【VVSS-G】

坊やは闇夜を恐れる俺をからかい、笑う。
でも、俺は雷に怯える彼を優しく労ってやる。

大人だからな。

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【VVSS-G】

「雷は罪人の上に落ちるそうだ。だから、おまえは大丈夫だよ」
そうなだめると、海斗は安堵するどころか、ますます俺に身を寄せてきた。
「どうした？ 何か悪いことでもしたのか？」
少年は首を振り、それから俺に聞いてきた。

---

【VVSS-G】

「あなたは怖くないの？」
「むしろ、雷に打たれて死ねるならいいと思っている」
「どうして？」
「苦しみが長引かない」
俺の母がどんな最期を迎えたか、少年に語るつもりはなかった。

---

【VVSS-G】

「生きているうちは華麗な絹に、そして死ぬときは眩く美しい光に包まれるというのは悪くないだろ？」
少年は呆れたような溜息をついた。
「暢気なことを……まあ、あなたらしいけど……っ」
また大きな音がして、彼は口を結んだ。

---

【VVSS-G】

俺はそんな彼をぎゅっと抱き寄せて、額にキスをする。
「航海に嵐はつきもの。つまり、俺と雷は友達みたいなもんだ。だから、俺と一緒にいれば、おまえに害を及ぼすこともない」
「ほ、ほんとうに？」
「アイ」
俺は坊やの頭を撫でた。そして、背中を優しく叩く。

---

【VVSS-G】

「俺のかわりに空が歌ってくれているのさ。おまえのための子守歌だ」
「うん」
「ちょっと声がデカいがな」
少年はくすくすと笑った。
「でも、さっきよりだいぶ遠ざかったね」
「ああ」

---

【VVSS-G】

ゆったりと少年の背中を撫で下ろし、彼の体温を感じながら、俺は思った。
雷を恐れたことはない。
むしろ、その訪れを願っていた。
雷鳴が轟いている間、孤独を忘れることができたから。

---

【VVSS-G】

「今はおまえがいる……」
「ん？ なんか言った？」
「いや」
俺はもう一度少年の額に唇を押しつけた。
「せっかく歌ってくれているんだから、もう眠らないとな」
「アイ。おやすみ、キャプテン」
「良い夢を、俺のキャビンボーイ」

---

【VVSS-G】

俺は少年を抱き締めたまま、思った。
もう孤独ではない。
雷鳴が鳴り響いているからではない。
腕の中のぬくもりが俺の心を満たしてくれる。

---

【VVSS-G】
それでも、友達に変わりはないぞ。
いつもはグズる坊やが進んで俺にしがみついてきたのは、おまえのおかげだからな。
俺は心の中で遠ざかる雷に告げた。

---

【VVSS-G】

ただ一人の親友ができたって、誰よりも愛する存在を見つけたって、おまえを忘れることはない。

夜空を切り裂く美しき閃光。
俺の心まで震わせた雷鳴。

幼馴染みってのは、そういうもんさ。

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こんばんは、松岡なつきです。
夜分に連投してしまい、申しわけありません。
ぎりぎりで間に合ったので、ツイートしてみました。
楽しんで頂けたら幸いです。

真夏のクリスマス (2024-12-25)

Posted on @matsuokanatsuki on December 25, 2024. (---- indicates a new Tweet. Tweets copied and pasted as-is, no corrections.)

「真夏のクリスマス」

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残念ながら冬のイングランド宮廷を愉しむことはできなかった。
歴史の授業で習ったところによると、チューダー朝のクリスマスは賑やかで、年明けまでどんちゃん騒ぎが続いたらしい。王宮で上演するためだろう。シェイクスピアの戯曲『十二夜』もこのシーズンのために書かれたものだ

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「もう一度暮らせって言われたらイヤだけど、クリスマスの晩餐会とか参加してみたかったな」
本当は降誕祭あたりに飲むものだとジョーが作ってくれたスパイス入りのワインをなめながら、海斗は呟いた。

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シナモンとオールスパイスが際立つ独特な味と香りは、身体を温める効果の他に、あまり質の良くないワインを飲みやすくするという目的もあるらしい。
美味しい葡萄酒を作るには少しばかり北に位置しているこの国では、それも致し方がないことなのだろう。

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ストレートで飲めるような高級品は、外国からの輸入に頼る他はない。つまり、庶民には高嶺の花だった。
「晩餐会にはどんな料理が出るって言ってたっけ？」
ジョーの問いに海斗は記憶を辿った。
「とりあえず豪華に見せるのが大事だからさ。とりあえずロースト料理が次から次に現れるよ。

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牛や豚はもちろんだけど、白鳥とかも姿焼きで」
「美味いのか？」
「まあ、大味だよね。翌日、料理人が残り物をシチューにしたやつの方が人気があったよ。俺のお目当てはやっぱりデザート……ええと、食後に出てくるお菓子でね。クリスマスならミンスパイとかドライフルーツのプディングとかかな

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スパイとかドライフルーツのプディングとかかな。でも、まあ、これもあなたが作った方が断然美味しいと思うけど」
ジョーが鼻を鳴らす。
「じゃあ、うんざりするような場所にわざわざ行くことはねえやな。俺がいくらでも作ってやるざえ」

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海斗はにっこりする。
「そう言ってくれると思ってた。じゃあ、今年の冬は楽しみにしてるね」
無事に冬を迎えるためには、まず夏に行われる戦いに勝たねばならない。それは判っていたが、どちらも口にしなかった。

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明るい未来を思い描くことで、今の不安を少しでもかき消したいという海斗の気持ちを、ジョーも理解してくれたのだろう。
「おまえさんだったら、晩餐会にはどんな料理を出す？」
ジョーの問いに海斗は首を傾げた。

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「白鳥は脂っぽかったから、普通の鶏肉で……うーん、クリーム煮もいいけど、クリスマスならワイン煮かな。それとジャガイモをふかして潰し、チーズをのせて焼いたやつも食べたいな。あと、欠かせないのはローストビーフ。表面を焼いたら、沸騰したお湯に入れてそのまま放っておくと、

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薔薇色をした柔らかいお肉になるって聞いたよ」
ジョーは頷いた。
「判った。それも全部作る」
海斗は思わずジョーに抱きついた。
「わーい」
「ちょ……」
勢いがつきすぎたのだろう。思わずよろけた料理人をしっかと抱き留めて、海斗は慌てて謝った。

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「ごめんね。嬉しさのあまり……」
「いいさ。痛い思いはしなかったからな」
すると、出入り口の方から陽気な声が聞こえてきた。
「むしろ、この上なく良い思いをしているように見えるぞ」
海斗は自分でも顔がぱあっと輝くのを自覚した。

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「ジェフリー、おはよう……って、もう昼過ぎだけど」
寝坊が大好きな船長は気怠げに豪奢な金髪を書き上げると、海斗が持っているマグに目を留めた。
「それは？」
「スパイスワイン」
「俺にもくれ」

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ジョーに言ったのは判っていたが、海斗は自分のぶんを差し出した。
「これ飲んでくれる？ やっぱり、俺には少し強いみたい」
「この程度で？ イングランドの赤ん坊より酒に弱いな」
苦笑したジェフリーは海斗から渡されたマグを傾け、喉の渇きを潤した。

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まあ、アルコールだから本当に潤うわけではないが。
「もっとスパイスを利かせてもいいぞ、ジョー」
ナイジェルを主人と仰ぐ料理人は、ジェフリーに媚びることはない。

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「オールスパイスの在庫が切れかかってるんすよ。俺としちゃ、飲み物より料理のことを考えなきゃいけないんでね」
ジェフリーは顔を顰める。
「買ったらいいじゃないか……と言いたいところだが、今はそれどころの騒ぎじゃないもんな」 ジョーは頷いた。

---

「穀物商は売り渋りをしてるし、スパイス商は店を閉め切ってやす。今は売り上げを増やすより、財産を守る方が先決みたいで」
ジェフリーはスパイスの粒を噛んでしまったときのように渋い顔をした。
「ため込んだところで敵に奪われたら元も子もないだろうに……」

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海斗は重くなりかけた空気を払うように元気な声を上げた。
「そうならないように俺達がいるんでしょ？ 女王陛下にも言っていたよね？ あれが嘘だったら、主君への欺瞞ってことでまた逮捕されちゃうよ」
「それだけはごめんだ」

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ジェフリーの瞳も明るさを取り戻す。
「ナイジェルにも常々注意されてるもんな。本当のこと以外、口から出すな、って」
ジョーが大きく頷いた。
「そう、そう、旦那の言葉はいつも正しい」
「俺だって滅多に嘘はつかないぞ」
「滅多にでしょ？ そこに大きな違いがあるってもんで」

---

それ以上、ジョーの忠実さを試すのは止めて、ジェフリーは海斗の手を握った。
「ここは暑いな。風に当たりに行こう」
海斗は『もう用事はないか？』というようにジョーを振り返る。料理人は唇の端を上げて首を振った。確かに彼はナイジェル・ファーストだが、ジェフリーにもかなり優しい。

---

「判った。配膳の時間には戻ってくるからね」
海斗はそう言い残して、ジェフリーと歩き出す。
「どこに行こうか。やっぱり庭がいい？」
ジェフリーは海斗の顔を覗き込んだ。
「どこでもいい。風は口実で、二人きりになりたいだけだ」

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「だと思った」
苦笑する海斗の顎を指でくいと上げて、ジェフリーは唇にキスをする。シナモンとオールスパイスの味がする口づけに、海斗はうっとりした。
「ワインは飲めないけど……この味は好き」
「だと思った」
海斗の言葉を真似して、ジェフリーは微笑む。

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誰もいない廊下で口づけを交わしながら、海斗は思った。冬が来て、スパイスワインを飲むたび、このキスのことを思い出すだろう。ミンスパイよりも、ドライフルーツのプディングよりも、自分にとってはクリスマスの味になるのだ。
（悪くない）

---

唇を離し、溜息をついた海斗は、ジェフリーの胸に頬を押し当てた。
「俺、寒いのはイヤだけど、あなたと一緒の冬は好き。今度の冬はきっともっと好きになるよ」
ジェフリーは海斗の頭を優しく撫でてくれた。

---

「今度は元気に迎えられるしな。俺も楽しみだ」
未来を語りたがる海斗の気持ちを、ジェフリーも尊重してくれる。一時、憂鬱さも恐怖も忘れて、海斗は恋人の腕の中に憩った。まあ、その中に包まれていれば、どんな季節も楽しく暮らせることは間違いなかったが。

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タイトルは『真夏のクリスマス」にしようと思います。
クリスマスの間には投稿できましたが、翌日までかかってしまい、申し訳ありません。

(I will need someone to post to get me out of posting jail. Thank you!)

[taiyousea]

combo breaker!

[eefara]

Minor update to my F&B short story Google Sheet: I’ve added some extra tracking for which short stories are available digitally and/or physically in the second and third tabs.

Edit: fixed a few dates that got auto-converted into uselessness and added links for where to acquire some of the short stories, mostly the newer ones. All links are from the original distributor, which should have further links for physical/digital storefronts to buy them from. I got lazy with the Twitter links and only linked 松岡先生’s Twitter itself, not the first tweet of the story; I probably need to go back and update that, but I don’t feel like it. :S

A good number don’t have links, typically since the distributor’s web page for it (if they even had one) are long gone by this point (or I simply couldn’t find one).

Also added a new stat: total number of F&B short stories. We’re at 129 now! (Though the Twitter ones beings broken up does inflate that a bit.) I might add a comparison of total # of SS pages to total # of novel pages down the road…

[eefara]

Announcement! The release date for F&B 25 has formally been announced!

(Tweet)

[CherryApple]

The Series is in Sale in bookwalker right now and I’m unsure If I should already buy them. Are there often Sales for the Same books? I Just started learning Japanese half a year ago and it will Probably Take a Long Time until I will be able to read them.

[NicoleIsEnough]

BookWalker runs discount events about twice a year, where you usually get 50% coin cashback on everything (you need to pay the full price first and then you can use the coins in your next purchase). So there’s not really a need to buy this series now. Plus, admittedly it’s a bit on the harder side, so I‘d think being at ~N2 Level is probably a good idea. But if you really want to try it out already, I‘d recommend just buying the first volume so you can try it out and see how much you like the series and the difficulty level.

[CherryApple]

I already bought the First Volume a few weeks ago.

If that’s the Case I will wait for a better Discount. There is no higher coinback for this series at the Moment.

[CherryApple]

There is now a 40 % coinback.